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Energy Vaultが建築した重力蓄電システム(写真:同社)
Energy Vaultが建築した重力蓄電システム(写真:同社)
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 欧米では再生可能エネルギーの大量導入が進み、その出力変動を平準化、もしくは余剰電力を蓄電するニーズが高まっている。その結果、古くてほぼ廃れたような技術からまったく新しい技術までさまざまな蓄電技術や蓄エネルギー媒体に脚光が当たり、それらの開発ラッシュが起こっている。中でも投資家の多くが注目し、実用化も始まりつつあるのが新型の重力蓄電システムだ。

 重力蓄電とは、電気でモーターまたはウインチを動かして重りを下から上に持ち上げる、つまり電気エネルギーを重りの位置エネルギーに変換して“蓄電”する技術注1)。“放電”時は、重りを降下させてその位置エネルギーを電力に変換する。

注1)位置エネルギーは、重りの質量がm、重力加速度がg、引き上げる高さがhのときにmghとなる。損失を無視すれば、約1kWhの電力量で約3.67トンの重り1個を100m引き上げられる計算になる。

 これ自体は新しい技術ではなく、揚水発電システムとして100年以上前から電力系統で広く使われている。水を“重り”として使っているわけだ。

 しかし、従来型の揚水発電システムには課題が多い(図1)。例えば、応答時間が数十秒~100秒と再生可能エネルギーの出力変動を吸収するには遅い点だ。従来型揚水発電のこれまでの主な用途は、昼食時間の電力需要の急減などといった火力発電の応答が間に合わない数分単位の需要変動の穴埋めだった。一方、再生可能エネルギーの出力変動は秒単位で、数十秒では間に合わない。

図1 新しい重力蓄電が揚水発電の課題の多くを解決
図1 新しい重力蓄電が揚水発電の課題の多くを解決
新旧の重力蓄電システムの概要や特徴、違いを示した。旧システムとは揚水発電システムのことで、国内で27GW/130GWh、世界全体で約1000GW分ある(a)。実績があり大容量にしやすい点は優れるが、設置場所が非常に限られる上に、応答時間が数十秒とやや遅い。総合効率が70%とやや低いことも懸念の1つ。一方、新しい重力蓄電システムは応答時間が1秒以下と短く、総合効率が85~90%と高い(b)。地上設置タイプも含めれば、設置場所を選ばない点も優れる。(図:(a)は電気事業連合会の図、(b)は主に英Gravitricityの図と特性データを基に日経クロステックがそれぞれ作成)
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 加えて、“蓄電”と“放電”の1サイクルの効率(総合効率)が最大で70%という点も課題の1つである。これは、揚水発電で利用するポンプの効率は液体(水)を扱う関係で約90%がほぼ限界となっているのに加え、水路の管と水との摩擦によるロスがあるためだ。

 利用コスト(電力平準化コスト)は、以前は揚水発電が蓄電システムとして最も低コストだったが、急速に低価格化が進む最近のリチウム(Li)イオン2次電池(LIB)を用いた定置型蓄電システム(ESS)と比べると割高になりつつある。

電力平準化コスト=揚水発電システムの利用コストとして一般に使われるLCOS(Levelized COst of Storage)は、独立した発電システムとしての利用コストである。つまり、蓄電システムとしての利用コストに加えて揚水時の電気代が上乗せされている。蓄電システムを発電システムの電力平準化のための追加設備としてみると、これが不要になる(ただし、充放電時の損失は考慮)。本稿ではこれを電力平準化コストと呼ぶ。