シャープがこの初秋、補聴器事業に突然参入した。2021年9月17日、軽度・中等度難聴者向けに補聴器「メディカルリスニングプラグ(MH-L1-B)」を投入(図1)。同製品は「一般的な補聴器の3分の1」(同社)という価格、ぱっと見ても補聴器に見えないスタイリッシュな外観という強みを併せ持つ。市場の反応も良く「製品の売れ行きは好調である」(同社)。
補聴器を開発するきっかけになったのは、シャープが手掛けてきた「スマートフォン」の存在である。同社は広島県の拠点を中心にモバイル通信端末などの開発を担っている。しかし日本国内のスマホの事業環境が厳しくなっており、今までと異なる事業領域への拡大を狙っていた。スマホを利用する年齢層は広がっており、特に高い年齢層の人たちに新たなサービスを提供できないかと模索する中で、「補聴器」が候補に挙がったという。
実は軽度・中等度の難聴者は高価だったり、着用時の見た目が気になったりするなどの理由から補聴器を手にしない人たちが多い。シャープによると補聴器を所持しない軽度・中等度の難聴者が推定1134万人存在しており、新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の変化で、その人数がより増加傾向にあるという。シャープはスマホ開発で培った「無線通信技術」「小型・省電力技術」、家電製品などでノウハウを蓄積してきた「AI・IoT技術」などを生かして、まだ補聴器を所持していない人々にアプローチできるという思いがあり、20年4月から新規事業として補聴器の開発に取り組んだ。