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 狙いはパワー半導体業界の再編だ。経済産業省は2023年1月19日、炭化ケイ素(SiC)パワー半導体などの設備投資に対して、上限3分の1を資金援助する取り組みを公開した(図1)。企業から申請を募り、経済産業省がそれらを審査して原則的に1案件を選ぶ(「経産省の半導体安定供給確保に向けた施策」を参照)。

図1 本事業の概要
図1 本事業の概要
SiCなどのパワー半導体の他に、マイコンやアナログ、半導体製造装置などへの設備投資も支援対象となる(図:経済産業省)
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 異色なのが、原則として2000億円以上の設備投資しか支援しない点である。SiCパワー半導体製造に強気な投資を続けるロームのそれが最大1700億円(2021年度~2025年度までの累計)であることからも、2000億円という数字のインパクトがうかがえる。本件を担当する同省 商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室に、この取り組みの意図を聞いた。

支援対象を“2000億円以上”の設備投資に絞る理由は何か?

 経済産業省では、事前に各社の事業規模などに関する情報を仕入れ、パワー半導体業界の再編に資するよう、個社の設備投資ではなかなか実現できない数字を設定した。

つまり、経済産業省としてはパワー半導体業界を再編させたいのか?

 再編が必要ではないかとは考えているが、圧力をかけて再編を迫っているわけではない。個社で海外のメーカーに渡り合っていけるならば、それでいいと思っている。ただ現実的に考えて、海外のパワー半導体メーカーの資金力や設備投資額は日本メーカーの比ではなく、国内1社で対抗するにはあまりに強力だ編集部注)。たとえ技術力で日本メーカーに分があっても厳しい勝負になるのではないか。

編集部注)SiCパワー半導体業界は、大規模少数の海外勢と、小規模多数の日本勢といった様相を呈している。例を挙げると、海外勢はスイスSTMicroelectronicsやドイツInfineon Technologies、米onsemi、米Wolfspeedの4社にほぼ絞られ、政府の支援を受けつつ数千億円単位の設備投資を実施している。対して日本は、ローム、東芝デバイス&ストレージ、三菱電機、富士電機、デンソー、日立パワーデバイスなど、多数の企業がひしめき合っている状態にある。

 経済産業省では「再編してはどうですか」という思いも込めてこのような基金を設けた。ただ繰り返しになるが、それに応じるかどうかはメーカー次第だ。

2000億円の設備投資ならば、再編せずとも頑張れば個社が手を挙げそうだが。

 確かに可能だと考えている。ただ2000億円にもなると、新工場を建てるなど、個社の中でも特に大きな事業であり、並大抵の設備投資では達しない額だと思う。

資金援助の対象は1案件に限るのか?

 「集中的な支援」がこの取り組みの趣旨であることから、パワー半導体分野では原則的に1案件しか支援しないつもりでいる。だが、もしも甲乙つけがたい案件が複数出てきたら、両方を支援する可能性もある。

基準に「SiCパワー半導体を中心に、国際競争力を将来にわたり維持するために必要と考えられる相当規模な投資」とあるが、例えばシリコン(Si)IGBTを含む設備投資計画も支援される可能性があるのか?

 パワー半導体の安定供給においてSi IGBTへの支援も絶対に必要不可欠という納得のいく説明があるならば、認定される可能性はある。