あたかも十徳ナイフのように、1つのシステムで多くの機能を提供できる無線技術が相次ぎ登場してきた。従来の無線通信機能に加え、部屋に入るだけでスマートフォンの充電が始まり、人の移動を高い精度で追跡する。健康状態を把握するといった見守り用途や、ドアの開閉検知による防犯などにも利用できそうだ。最大で“8徳”の無線機器もある。
電波、特に極超短波や中波の使い方に新しい扉が開き始めた。しかも複数ある。これまで、電波の用途は主に無線通信やレーダーだった。一方、新技術では無線通信に加えて、10m程度までの範囲の無線給電機能、さらには機械学習と組み合わせることで空間の状態を高精度に検知する各種センサー機能が次々と開発されている(図1)。部屋全体が無線給電の空間となり、中にある端末をワイヤレスで充電したり、2~50cmの高い精度で無線端末の位置を把握するほか、無線機能を持たないドアの開閉状態や、人の転倒、呼吸状態なども検知できるようになる。
新技術を大別すると、周波数が900M~数GHzの極超短波やマイクロ波を用いた無線LANなどの通信機能に追加機能を加えるアプローチと、1MHz前後の中波を用いた無線給電技術に通信機能などを加えるアプローチがある(表1)。前者はさらに、多数のアンテナ素子でアクティブなビームフォーミング(BF)を実現するか、あるいは単に高利得のアンテナで済ませるかで分けられる。