MaaSプラットフォーマーへの転身に向け、土台作りを急ぐMobileye。2019年は車両データの収集網を本格的に稼働させ始める重要な1年だ。画像処理チップ「EyeQ4」を使い、新型車だけでなく既販車からもデータを収集する。同時に、2021年に量産する次世代品「EyeQ5」の開発は佳境を迎える。
「データ収集端末を世界中で走らせる土台は整った。これで都市の状況をリアルタイムに把握できるようになる。2019年はMaaS(Mobility as a Service)のプラットフォーマーに転身する上で重要な1年だ」。イスラエルMobileye(モービルアイ)のPresident and CEO(最高経営責任者)であるAmnon Shashua(アムノン・シャシュア)氏は手応えをこう口にした。
MaaSプラットフォーマーの座をつかむため、Mobileyeは車両データの収集網を世界に張り巡らせる。収集源は新型車と、後付けのデータ収集端末「Mobileye 8 Connect」を装着した既販車の2つ(図1)。いずれも最新の画像処理チップ「EyeQ4」を搭載する。EyeQ4を搭載する新型車は、「2019年は12社以上が投入し、数百万台規模になる」(Shashua氏)見込みだ注1)。
注1)ドイツBMWや中国・蔚来汽車(NIO)は2018年にEyeQ4搭載車を量産化したが、いずれも3眼カメラを採用した。画角の異なるレンズを搭載した3種類の単眼カメラを1台のモジュールに組み込むことで、検知範囲を広げた。安全性を高めるだけでなく、データ収集能力を強化する狙いがある。
REM技術で即時に情報取得
EyeQ4を搭載する新型車が普及するまでのつなぎ役として重要なのが、Mobileye 8 Connectを装着した既販車である。後付け装置の特性を生かし、「タクシーや配送トラックなど稼働率の高い商用車を中心に搭載して多くのデータを集められる体制を整えた」(同社Aftermarket Division Director APAC & AfricaのNimrod Dor氏)という点も、データの鮮度を保つ上で見逃せない。
Mobileye 8 Connectの装着車は既に、世界10カ国で「2万台以上が走り回る」(Shashua氏)という。例えば、スペイン・バルセロナでは5000台以上の試験車両が運行中だ。米ニューヨークでは、ライドシェアサービス「Uber」に使う2000台の車両にMobileye 8 Connectを取り付けた注2)。これまでは欧米での取り組みが中心だったが、日本の愛知県や韓国の大邱(テグ)などアジア圏でのデータ収集を強化する方針だ。
注2)Mobileyeはレンタカー会社の米バギー(Buggy TLC)と提携し、Buggyが保有する車両にMobileye 8 Connectを取り付けた。Buggyはその車両をUberの運転者に貸し出している。
Mobileye 8 Connectの表の顔は、後付けの衝突防止補助装置である。車載カメラで撮影した映像を処理し、衝突の危険がある場合は音やディスプレーの表示で警告する。
衝突防止補助装置の役割を担いつつ、裏側では認識した道路やランドマークなどの情報をデータセンター(クラウド)に送り続ける。Mobileye 8 Connectで収集したデータは「Mobileyeのもの」(Mobileyeの幹部)だ。
車載カメラで撮影した映像を解析・蓄積する技術は、Mobileyeが開発した「REM(Road Experience Management)」を使う(図2)。REMは、車両を走らせながら認識した道路やランドマークなどの情報をクラウドに送り、都市の情報を集約する注3)。収集したセンサー情報をビッグデータ解析することで、速度規制や渋滞情報などリアルタイム情報を確保できる特徴がある。
注3)Mobileyeは、吸い上げたビッグデータを「Amazon Web Services(AWS)」に蓄積する。
もう1つ、クラウドに送信するデータ容量が「1km当たり10kバイト程度と非常に小さい」(Shashua氏)という特徴もある。カメラ画像ではなくEyeQ4でエッジ処理した結果だけを「テキストデータで送る」(Dor氏)ことで送信容量を抑えた。これで、通信料を抑制するだけでなく、「クラウド側の計算能力を圧迫せずに済む」(Shashua氏)。