伊仏合弁のSTMicroelectronicsがパワー半導体で攻勢に出ている。現在、パワーデバイス市場ではドイツInfi neon Technologiesの後を追うが、SiCによる次世代パワー半導体で電動車需要を獲得し、トップの座を狙う。2019年3月末には、SiC開発・製造の本拠地とも言えるイタリア・シチリア島のカターニア工場を報道陣に初めて公開、車載レベルの品質を訴求した。
伊仏合弁の大手半導体メーカーSTMicroelectronics(本社:スイス、以下ST)は、イタリア・シチリア島にある同社主力のパワー半導体工場「カターニア工場」で、2019年3月28日、報道陣向けにパワー半導体事業の方針説明会を開いた。既存のSi(シリコン)によるパワー半導体と比べて低損失にできる同社のSiC(炭化ケイ素)品の特徴をアピールするためだ。
「SiCなどパワー半導体の最もよく知られた研究・開発・製造の拠点の1つで、大学や産業界との研究開発のエコシステム(生態系)を備える」。同社President & CEOのJean-Marc Chery氏は同工場をこう表現する。今回、この生産ラインや検査ラインがあるクリーンルームも報道陣に初めて公開、品質の高さを強調した(図1)。
説明会には、CEOをはじめ関連幹部がすべて登壇、各々の立場で方針を語った(図2)。強調したのは、SiCによりパワーデバイス市場で首位の座を狙う戦略だ。現在はドイツInfineon Technologiesがトップにある。
もっとも、車載用SiCデバイス市場に限ればSTはトップと同社は言う。このSiCデバイスの市場が、2019年には対前年比2倍の2億米ドルの市場に拡大、さらに20社以上の自動車メーカーが同社SiC品を採用していると、同社の成長の可能性を示した。
トレンチ不採用の可能性も
今回、SiC関連で明らかにしたのは、技術進化のロードマップと、SiCウエハーの調達方針である。
ロードマップについては、現行の第2世代プレーナー型よりもオン抵抗が低く微細な第3世代を開発、2022~2023年に市場投入する(図3)。自動車市場を意識し耐圧1200Vまでのデバイスでオン抵抗を40%削減する。例えば1200V耐圧品は5.5mΩcm2を3.3mΩcm2に下げる。
さらにトレンチ型も開発中であることを明らかにした。ただしトレンチ型の市場投入は確定していないという。第3世代のプレーナー型で、当面のほとんどの車載向けの応用に応えられると見ているためだ。一方でトレンチ型は、一般には高密度化とオン抵抗の低減を両立しやすい。同社は、市場要求を見極めつつ、トレンチ型の市場投入の準備を整えている状況だ。
同社によるとトレンチ型の実現は簡単ではない。基板に対して垂直方向に素子を形成する。具体的には基板に穴を掘り、側壁に成膜して電流を流すチャネルなどを形成する。成膜を均一にできなければ、車載品質のデバイスにはならないという。