全7700文字
PR

 長岡技術科学大学・三浦友史氏の研究グループ 
モジュラー方式マルチレベル・マトコン
「制御なし」で電圧ばらつき問題を解決

 北海道と本州の間で電力をやり取りする「北海道・本州間連系設備」が2019年3月に運転を開始した。これは30万kWもの電力を直流送電するもので、再生可能エネルギーの導入拡大や電力取引の利用拡大が期待できるという。この設備には、「モジュラー・マルチレベル・コンバーター(MMC)」が使われている。交流-交流(AC-AC)コンバーターの一種である。変換の途中で一度、直流を経由するため、これを使って直流送電を実現する。

 MMCの特徴はモジュラー方式を採用している点にある。3相インバーターのアームを1個のスイッチ素子だけではなく、複数のスイッチ素子から成る「セル」を多段接続して構成する方式だ。耐圧が低いスイッチ素子でも、高電圧や大電力に対応できる。

研究ターゲットはMMMCへ

 すでにMMCは実用化段階に達した。このため研究開発のターゲットは、次なるテーマに移行しつつある。それはMMCを発展させた「モジュラー・マルチレベル・マトリクス・コンバーター(MMMC)」である。

 MMMCもAC-ACコンバーターである。MMCとの違いは、直流を経由せずにAC-AC変換を実現できる点にある。一般的なマトリクスコンバーターは高電圧化が難しいが、モジュラー方式を採用すれば簡単に実現できる。この点が高く評価され、現在多くの研究者が開発を進めている。長岡技術科学大学 電気電子情報工学専攻 教授の三浦友史氏もそうした研究者の1人だ。同氏が取り組むのは、MMMCが抱える最大の問題を解決する方法の開発である。

 MMMCは、双方向スイッチとして機能するセルを多段接続して、1つのアームを構成する(図1)。1個のセルは、4つのスイッチ素子と1つのキャパシターから成る。ここで問題になるのはキャパシター電圧だ。AC-AC変換を実行する際に、AC入力からAC出力に至る電流経路に偏りがあると、キャパシター電圧が高いものと低いものができる。端子電圧のバランスが取れなくなると、AC出力波形の歪みが大きくなったり、ピーク電圧が低くなったりする。

(a)MMMCの回路構成
(a)MMMCの回路構成
[画像のクリックで拡大表示]
(b)セルの構成
(b)セルの構成
[画像のクリックで拡大表示]
図1 モジュラー・マルチレベル・マトリクス・コンバーターの回路構成
(a)は、モジュラー・マルチレベル・マトリクス・コンバーター(MMMC)の回路構成。(b)はセルの構成である。試作では、3つのセルを多段接続した。電力容量は2kV。スイッチング周波数は2kHz。キャパシターの容量は480µFである。(図:三浦氏)

 そこで従来は、経路を厳密に制御した循環電流で対処していた。循環電流とは、回路外部に電力が流出せずに内部だけで循環する電流である。これを使って、端子電圧の高いキャパシターの電荷を低いキャパシターに移してバランスを確保する。しかし、この方法では、大型インダクターが必要になったり、制御が複雑になったりする。

電流は自然に流れる

 そこで三浦氏が考案したのが「あえて制御しない」という対処方法だ1)図2)。すべてのスイッチ素子がオンする期間を設けて、端子電圧の高いキャパシターの電荷が低いキャパシターに自然に移動することを利用する。つまり、一切制御しない循環電流でキャパシター電圧のバランスを確保する(図3)。各アームには小型インダクターを挿入する。急激に電流が流れて、経路にあるスイッチ素子が壊れてしまうのを防ぐためだ。

図2 マルチレベルの出力電圧
図2 マルチレベルの出力電圧
3つのセルを使用しているため、出力は7レベルになる。正弦波に近い波形が得られる。(図:三浦氏)
[画像のクリックで拡大表示]
図3 キャパシター電圧の変動範囲
図3 キャパシター電圧の変動範囲
入力が60Hzで出力が60Hzの場合。キャパシター電圧の変動範囲は120V±10%に収まっている。(図:三浦氏)
[画像のクリックで拡大表示]

 同氏が考案した方法は、従来方法に比べると3つのメリットがある。第1に制御を大幅に簡略化できること。第2に装置を小型化できること。第3にキャパシター電圧の発散を防止できることである。キャパシター電圧の発散は、出力の周波数が低い場合や、入出力の周波数が同一の場合に起きる。例えば、入出力の周波数が同一の場合は、常に同じスイッチ素子がオンするため、キャパシター電圧がどんどん上昇する。ところが同氏が考案した方法を使えば、すべてのスイッチ素子がオンする期間に循環電流が自然に流れてバランスを取るため発散は起きない。

 試作したMMMCの容量は2kVA。入力電圧は150V、出力電圧は200V。入力周波数は5Hz、50Hz、60Hzに、出力は60Hzに対応する。セルを構成するキャパシターの端子電圧は120Vである。図4は、60Hz入力、60Hz出力時のキャパシター電圧の測定結果である。キャパシター電圧は120V±10%の範囲に収まっており、バランスを確保できていることが分かる。用途としては、大容量モーターの駆動や再生可能エネルギーのインバーター装置などを想定する。

図4 低い周波数でも同一周波数でも動作可能
図4 低い周波数でも同一周波数でも動作可能
今回の対策方法を使えば、出力が低い周波数の場合でも、同一の周波数(60Hz)の場合でもキャパシター電圧は発散しない。なお、従来の対策方法では、出力が低い周波数の場合と同一の周波数の場合は制御方法を変更することで対応している。(図:三浦氏)
[画像のクリックで拡大表示]

 今回、同氏は循環電流を制御しなくても、キャパシター電圧のバランスを確保できることを明らかにした。しかし実用化に向けた課題は残っている。それは、どの程度の循環電流が流れるかを事前に見積もれないことだ。このままだとスイッチ素子の最適設計ができない。今後同氏は、この問題解決にチャレンジする予定だ。

参考文献
1)Miura Y., Fujiwara T., Yoshida T. and Ise T., “Control Scheme of the Modular Multilevel Matrix Converter using Space Vector Modulation for Wide Frequency Range Operation”, 2017 IEEE Energy Conversion Congress and Exposition(ECCE), 講演番号P307、Oct. 2017.