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 早稲田大学・巽宏平氏の研究グループ 
SiCパワーモジュールを高温対応へ
Niマイクロめっき接合で250℃動作

 SiCデバイスには、多くの特徴がある。例えば、変換効率を高められることや、スイッチング周波数を高められることなどだ。さらに、忘れてはならない特徴がもう1つある。それは高温動作が可能なことである。Siデバイスは+150~200℃が限界だが、SiCデバイスは+250~300℃の高温環境でも動かせる。この特徴を生かせば、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)に搭載するパワーモジュールの放熱対策を大幅に簡略化できる。しかし現時点では、高温動作という特徴を生かし切れていない。なぜならば、コンデンサーなどの受動部品やプリント基板、実装などの周辺部品/技術が高温動作に対応できていないからだ。

 つまり、SiCデバイスが持つ高温動作という特徴を生かすには周辺部品/技術の新規開発が必要になる。そこで早稲田大学 大学院情報生産システム研究科の研究科長であり、教授の巽宏平氏は、SiCデバイスの高温動作を可能にする実装技術の研究に取り組んでいる。

 同氏によると、「高温動作の観点で見た場合、現時点で構造的に最も優れている3相インバーター用パワーモジュールは、トヨタ自動車のHEVである第4世代のプリウスに搭載されているものだろう」という。このパワーモジュールは、Siデバイスの上下を放熱板で挟む両面放熱構造を採用する。Siデバイスと放熱板はPbフリーはんだ付けで接合しており、+150℃での動作が可能だ。しかし、この構造をそのままSiCデバイスを採用した高温対応のパワーモジュールに適用するのは難しい。はんだが溶けてしまうからだ。

めっき技術を接合に利用

 SiCパワーモジュールに両面放熱構造を適用するには、接合方法を改良しなければならない。目標は+250~300℃の高温に耐えられると同時に、製造コストの低減のために低温で接合できる技術の実現である。巽氏によると、候補となる従来技術は3つあるという。第1に超音波接合技術。第2にTLP(Transient Liquid Phase)と呼ぶ接合技術。第3にナノ粒子で接合する技術である。しかし、いずれも+250~300℃の高温環境で高信頼性を確保するのは難しいという結論に至った。

 そこで新たに開発したのがNiマイクロめっき接合だ1)。「めっきと聞くと古い技術というイメージがある。しかし、従来のめっき技術は表面処理を実現するもの。今回は表面処理ではなく金属間接合に使った点が新しい」(同氏)。

 電気メッキで、SiCデバイスと放熱板という2つの金属面を接合する。しかし、2つの金属面をぴったり重ねると両者の間にめっき液は入って行かず、内部をめっきできない。そこで同氏は、三井ハイテックと共同で「山型リードフレーム」を開発した。これは先端部にテーパーを付けて山型に加工したリードフレームである(図1)。この先端部をSiCデバイスに重ねる。すると、入り口が広く、奥に行けば行くほど狭くなる構造ができる。めっき液は、奥深く入って行けるため、電気めっきを実行すれば、リードフレーム側とSiCデバイスの金属面からNiの柱状晶がそれぞれ成長し、最終的に両者がぶつかることで接合が完成する。

図1 Niマイクロめっき接合
図1 Niマイクロめっき接合
Niマイクロめっき接合技術で、山型リードフレームと SiCデバイスを接合した。(図:巽氏)
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ラジエーターを1つ不要に

 こうして完成した接合部を電子線後方散乱回折法(EBSD)で確認した(図2)。結晶方位の面内回転はあるものの、リードフレームとSiCデバイスから柱状晶が成長し、両者がぶつかって接合されている様子が確認できた。接合部は良好で、欠陥もボイドもないため、耐熱性は高い。−45℃と+250℃の環境に交互にさらす温度サイクル試験を行ったところ、Pbフリーはんだ付けの場合に比べて、高いシェア強度が得られることが分かった(図3)。「+250℃の耐熱性を備えていることを証明できた」(巽氏)。

図2 接合部を電子線後方散乱回折法で確認
図2 接合部を電子線後方散乱回折法で確認
山型リードフレーム側とSiCデバイス側から成長してきたNiの柱状晶がぶつかって、両者が接合する。欠陥やボイドはない。(図:巽氏)
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図3 高い耐熱性と接合強度を実現
図3 高い耐熱性と接合強度を実現
温度サイクル試験(TCT)の結果である。−45℃と+250℃の温度サイクルを1000回かけても高いシェア高度を確保できた。(図:巽氏)
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 さらに同氏は、開発したNiマイクロめっき接合技術を使って両面放熱構造のSiCパワーモジュールを試作し(図4)、電力損失を実際に測定した。その結果、IGBTを使ったパワーモジュールに比べて、電力損失を1/4~1/6に削減できる結果が得られた。

図4 3相インバーター用SiCパワーモジュールを試作
図4 3相インバーター用SiCパワーモジュールを試作
3相インバーターに向けた1レグ分のSiCパワーモジュールの断面図である。SiCパワーMOSFETとSiCショットキー・バリアー・ダイオード(SBD)をNiマイクロめっき接合で、山型リードフレームと接合させた。(図:巽氏)
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 SiCパワーモジュールを高温動作させれば、HEVのコストを削減できる可能性がある。例えば、現行のHEVはエンジンの水冷温度は+110℃だが、パワーモジュールは+65℃だ。高温動作が可能なSiCパワーモジュールを採用すれば、その水冷温度を+110℃に高められる。つまりラジエーターを1つに統合できるため、その分だけコストを削減できる。SiCデバイスの採用によるコスト上昇分を吸収できるようになる。

参考文献
1)Tatsumi K., Morisako I., Wada K., Fukuomori M., Iizuka T., Sato N., Shimizu K., Ueda K., Hikita M., Kamimura R., Kawanabe N., Sugiura K., Tsuruta K. and Toda K. “High temperature resistant packaging technology for SiC power module by using Ni micro-plating bonding”, 2019 IEEE 69th Electronic Components and Technology Conference(ECTC), pp.1451─1456, May 2019.