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 山口大学・田中俊彦氏の研究グループ 
SiC採用の400kHz誘導加熱
Liイオン電池に混入した金属粉を検知

採用したEI型の誘導加熱コイル。(図:田中氏)
採用したEI型の誘導加熱コイル。(図:田中氏)
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 Li(リチウム)イオン2次電池の発火/発煙事故は増加傾向にある。製品評価技術基盤機構(NITE)によると、「Liイオン2次電池を搭載した電子機器での事故は2013~2017年の5年間で約2倍に増加した」という。

 航空会社は、Liイオン2次電池を搭載した電子機器の機内への持ち込み制限を強化している。スマートフォンやモバイルバッテリーなどは、手荷物として客室に持ち込めるものの、預け入れ手荷物についてはエネルギー容量などを基準に制限を設けている。もし、今後さらにLiイオン2次電池の事故が増えれば、この基準はもっと厳しくなるだろう。そうなれば旅行客の利便性は大きく損なわれる。

ステンレスの金属粉が原因

 Liイオン2次電池の発火/発煙事故はなぜ起きるのか。山口大学 大学院創成科学研究科 パワーエレクトロニクス教育研究分野 工学部 電気電子工学科 教授の田中俊彦氏は、「高機能フィルムであるセパレーターの製造工程で、歯車などの破損や摩耗で発生したステンレス(SUS304)の金属粉の混入が一因だ」と指摘する。セパレーターはその後、正極板と負極板で挟み込んでプレス成形する。このときに金属粉が正極板や負極板に達して内部短絡の一歩手前まで進行する。電子機器に収められてエンドユーザーにわたると、充放電の繰り返しや、落下などの衝撃を受ける。その結果、内部短絡に至って発火/発煙事故へと発展する。

 この問題を解決するには、セパレーターの製造工程で金属粉の混入を検知しなければならないだろう。同氏によると、金属粉を検知する装置は、次の4つの条件を満たす必要があるという。金属だけを検出できること、直径0.1mm以下の金属粉を検出できること、セパレーターの搬送速度(10m/分)に対応できること、セパレーターの裏面の金属粉も検出できること――である。

 ところが、従来技術はいずれも、この4条件も満たせなかった。代表的な従来技術は3つある。第1のCCDカメラで撮影する方法は、セパレーターの裏面の金属粉は検知できない。第2のX線を使う方法は、10m/分の搬送速度に対応できない。第3の赤外光と可視光を使う方法は、セパレーターの裏面に混入した金属粉は検知できない。

SiCパワーMOSFETを採用

 従来技術はいずれも課題を抱えており、このままではセパレーターの製造工程に適用できない。そこで田中氏は、従来とはまったく異なる技術で問題解決に挑戦した。採用した技術は「高周波誘導加熱」である。高周波の交番磁界をセパレーターに印加することで金属粉を加熱し、サーモグラフィックカメラで温度が上昇した金属粉を検知する1)図1)。この方法であれば上記の4つの条件をすべて満足できる。

図1 高周波誘導加熱を利用した金属粉検知の仕組み
図1 高周波誘導加熱を利用した金属粉検知の仕組み
高周波交番磁界を微少な金属粉に与えることで加熱し、サーモグラフィックカメラで温度が上昇した金属粉を検知する。(図:田中氏)
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 高周波誘導加熱でどの程度の温度上昇が得られるのか。簡単な実験装置でのテストでは、直径が0.3mmの金属粉であれば5~6℃、0.15mmの金属粉であれば2~3℃の温度上昇が得られることが分かった。これだけの温度上昇があれば、サーモグラフィックカメラで検知できる。そこで同氏は次に、セパレーターの製造工程への組み込みを見据えて、520mmの幅と10mm/分の搬送速度に対応できる検出装置を開発した。誘導加熱の周波数は400kHzである。ただし400kHzと高周波だと、SiパワーMOSFETを使ったインバーターでの駆動は難しくなる。そこで今回はSiCパワーMOSFETを採用した。

 セパレーター全面に一様な交番磁界を印加するため、「EI型」フェライトコアに巻線を施した誘導加熱コイルを複数個直並列に配置した(図2)。具体的には、15個の誘導加熱コイルを横に置き、これを2列並べた。ただし、場所によって加熱状態が不均一になることを防ぐため、各列の配置位置を横にずらした。1巻線当たりの等価直列抵抗は0.38Ω。全部で30個の誘導加熱コイルを使っているため、等価直列抵抗は全体で0.38Ω×30=11.4Ωになる。従って、出力電流を30ARMSに設定した場合、インバーターの直流電圧は483.7Vが必要になる。そこで、SiCパワーMOSFETには、マージンを見込んで1200V耐圧品を使った。なお、セパレーターに印加される磁束密度は約36mTである。

図2  試作した高周波誘導加熱装置
図2  試作した高周波誘導加熱装置
(a)高周波誘導加熱装置の構成。SiCパワーMOSFETを採用したインバーターで、フェライトコアのコイルを駆動する。(b)は誘導加熱コイルが作るフリンジング磁界の様子である。フリンジング磁界とは、フェライトコアのギャップからはみ出して形成される磁界である。これを利用して金属粉を加熱する。(図:田中氏)
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 試作した検査装置を使って、金属粉を混入させた高機能フィルムを誘導加熱して、サーモグラフィックカメラで撮影した(図3)。この結果、0.15mmと小さな金属粉を検知することに成功した。研究開発はあと1年で完了する見込みだ。「その後は、企業に技術移転し、5年以内に実用化されることを期待している」(同氏)。

図3 サーモグラフィックカメラで撮影
図3 サーモグラフィックカメラで撮影
直径が0.15mmの金属粉(SUS304)を検出した様子である。400kHzで加熱したところ、2~3℃の温度上昇が確認できた。(写真:田中氏)
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参考文献
1)Shijo T., Uchino Y., Noda Y., Yamada H. and Tanaka T. “New IH Coils for Small-Foreign-Metal Particle Detection using 400kHz SiC-MOSFET Inverter”, 2018 IEEE Energy Conversion Congress and Exposition(ECCE), pp.3602─3707、Spt. 2018.