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再生映像がすぐに途切れたり、アクセスが集中してサーバーがダウンしたり……。テレビで放送される大規模イベントでは使えない。そんな風に見られていた「映像配信」が、急速な進化を遂げている。最近では、地上デジタル放送と同等の遅延時間を実現する技術が登場し、同時アクセス数でも最高で1000万人以上の規模にも対応できるようになってきた。

 テレビ局が放送用電波を返上し、その帯域を携帯電話事業者などが活用する日が現実になる……。昨今の「英国放送協会(BBC)が放送用電波の返上を検討」という噂や、NHK(日本放送協会)によるネットでの常時同時配信を巡る議論は、そんな未来が“あり得る”ことを印象付けている。

 BBCに関する噂は事実である。もちろん、「今すぐに」ということではなく、2034年をターゲットに据えて同社のDistribution & Business Developmentという部署で検討を進めている。その部署で同件を担当するDirectorのKieran Clifton氏に面会したことがある、月刊ニューメディア編集部 ゼネラルエディターの吉井勇氏は「(2034年に電波を返上することを想定し)その時点でも地上波に依存する世帯が300万~400万いると試算しており、Clifton氏はそうした世帯に対して監督官庁が納得する提案が必要だと話していた」と語る。

 BBCは2007年に番組の見逃し配信サービスとして「BBC iPlayer」を開始、2008年にはテレビ放送との常時同時配信を始めた(図1)。見逃し配信の視聴期間は当初の7日間から、2013年に30日間、そして2019年には1年への延長が認められた。2019年1月のiPlayerでの視聴件数は3億5600万件に達しており、かつてのテレビ、ラジオ、iPlayerの3つを並列させる方針から、現在では「iPlayerを表玄関にする姿勢を明確にしている」(吉井氏)。テレビの前だけでなく、スマホ(スマートフォン)・タブレット端末で外出先を含めて、“いつでもどこでも見たい”というユーザーの視聴スタイルの変化に柔軟に対応してきた。

図1 テレビ放送のネット配信で先行するBBC
図1 テレビ放送のネット配信で先行するBBC
BBCのiPlayer。同社の「表玄関」と位置付けており、2019年1月にはiPlayerでの視聴件数は3億5600万件に達した。(図:BBC)
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 そこには、「(世界から高い評価を受けている)BBCの番組コンテンツの価値を守るという最大のミッションがある」と吉井氏は見る。その実現のためには、視聴データを取得し、それを元に新サービスを開発して「受信許可料」(BBCの受信料)に見合う価値を得たいという視聴者のニーズに応える必要がある。直接的な視聴データを取得できない放送ではなく、将来を見据えてiPlayerを主役に据えるという決断は自然なものだと言える。

 一方、NHKは2019年5月に成立した改正放送法によって、放送番組の常時同時配信が認可された。視聴者は受信料を払っていれば、外出先などで「総合」と「Eテレ」の2つのチャンネルを放送と同時にネットで見られるようになる。

 NHKは常時同時配信の2019年度中の開始を目指していたが、11月8日に総務省がNHKの実施基準案に対して再検討を要請し、現在では“棚上げ”状態になっている。総務省は主に、ネット関連業務の費用などが増えることを問題視しており、NHKは計画の見直しを迫られている。

 英国と日本の公共放送局が置かれた状況やスピード感には大きな違いがあるが、根幹に共通してあるのは映像配信技術の急速な進化である。