これまでテレビ局のような専用設備が必要だった大規模な聴衆に向けてのライブ中継が、個人でもできる未来が近づいている。既に4Kに対応したビデオカメラは安いもので数万円で入手できるほど低価格化が進み、映像を数秒などと非常に短い遅延で数万人に配信するクラウドやCDN(Content Delivery Network)のサービスも登場している。さらに、それに対応する機器や映像の制作環境にも低コスト化の波が訪れている。
「これは先駆的な製品だ」(フジテレビジョン 技術局 技術開発部 副部長の伊藤正史氏)。サイズが38.1mm×127mm×107.5mmの“小さい箱"が、テレビ局の映像配信関係者などを驚かせている。
正体は「EdgeCaster 4K」と名付けられた、リアルタイムエンコーダー装置である(図1)。開発したのはビデオンセントラル(Videon Central)という米国の会社である。実は同社は過去に、スマートテレビの先駆けとなる米グーグル(Google)とソニーらが共同開発したプラットフォーム「Google TV(現在のAndroid TV)」や、YouTubeなどネットの映像コンテンツをテレビで視聴できるようにするデバイス「Chromecast(クロームキャスト)」の開発を手掛けた、知る人ぞ知る企業である。
EdgeCaster 4Kは、フジテレビが「FIVB ワールドカップバレーボール2019(W杯バレー)」(2019年9月14日~10月15日)の試合中継と同時に行った「超低遅延ライブ配信」で活用された。地上デジタル放送と同等の遅延時間の2~3秒で、人気選手にフォーカスするなどした別アングルの映像をスマートフォン(スマホ)に配信し、放送映像と同時に楽しめるという新サービスである。同装置は、このサービスの実現に不可欠だった。