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世界最大級のコンシューマーエレクトロニクス関連の展示会「CES」で、日本企業が主役を張ったのは、デジタル家電が全盛だった2000年代前半以来のことかもしれない。2020年1月7日~10日に開催された今年の展示会では、ソニーの電気自動車(EV)やトヨタ自動車のスマートシティー構想に世界が沸いた。この2つのプロジェクトが意味するものは何か。

モビリティー

自社技術をアピールする場に

 今年のCESで最も大きな注目を集めたのは、ソニーが開発した電気自動車(EV)の試作車「VISION-S」である(図1)。運転支援などに向けて車内外に33個のセンサーを搭載したほか、フロントシート前方には横長の大型ディスプレーを配置。独自の立体音響技術「360 Reality Audio」に対応するなど、車内を「エンタメ空間」に変身させるさまざまな工夫を盛り込んだ(図2)。安全性能以外の付加価値が重要になるとされる、完全自動運転時代をにらんだソニーならではの提案である。ソニー代表執行役社長の吉田憲一郎氏は「現在、モビリティーの世界で起きている進化によって、クルマは新たなエンタメスペースとして洗練されていくと信じている」と話した。

図1 なぜソニーはクルマを作ったのか?
図1 なぜソニーはクルマを作ったのか?
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図2 「VISION-S」はエンターテインメント性も重視
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図2 「VISION-S」はエンターテインメント性も重視
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図2 「VISION-S」はエンターテインメント性も重視
車内には音楽・映像・ゲームなどを再生できる、幅の広い大型ディスプレーを備える(写真左)。走行距離や電池残量などのデータを確認できるスマホアプリでドアの鍵を開け閉めできる(写真右)。(写真:麻倉怜士)

 ソニーの発表を受けて「EV事業に参入」と書き立てるメディアもあった。しかし、開発を主導した、ソニー AIロボティクスビジネスグループを率いる川西泉氏(執行役員 AIロボティクスビジネス担当 AIロボティクスビジネスグループ部門長)は、「カーメーカーにはならない」と明言する。

 ではなぜ、ソニーはクルマを作ったのか。第1に、モビリティーの進化の先に、イメージングセンシングやエンタメなどソニーの技術を生かせる大きなチャンスがあり、それを世界が注目する場でアピールする狙いがあった。

 川西氏はこう言う。「2000年代にはスマートフォン(スマホ)によるモバイル分野のパラダイムシフトがあったが、次はモビリティーで大きな変革が起きる。そこで、ソニーが持っている技術を活用し、モビリティー分野でソニーならではの新しいユーザー体験を追求したい」。

 家庭用ゲーム機「PlayStation(プレイステーション)」と犬型ロボット「aibo(アイボ)」で、プラットフォームビジネスの構築を経験している川西氏は、「クラウドやAI(人工知能)なども含めて、どうシステムを作るのか、(EVの開発も)PlayStationやaiboに通じるものがある」と語る。