「新規事業を立ち上げろ」。昨今、どんな会社でもこうした指令が経営層や上司から降ってくることが多い。しかし、新規開発案件の大半は社内でもまれるうちに行き場を失い、日の目を見ない。大企業ならなおさらだ。そんな中、2020年3月を目安にクラウドファンディング支援者に届けられる、幼児用の仕上げ磨き専用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」は稀有(けう)な存在だ。歯ブラシとは無縁だった京セラがライオンとソニーの協力を得ながら、“爆速”で開発した。舞台裏に迫る。
電子材料・部品やスマートフォン(スマホ)などの電子機器を開発・販売する京セラが、歯ブラシを作ったと聞けば、ほとんどの人が「なぜ?」と思うだろう。しかも、開発を進めた場所が自社内ではなく東京・品川のソニー本社内となると、疑問符の数が増えるはずだ。
京セラがライオンの協力を得て、ソニーのスタートアップ支援プログラムを活用して開発した「Possi(ポッシ)」が、2020年3月を目安にソニーが運営するクラウドファンディングサイト「First Flight」で支援者の元に届けられる(図1、図2)。その数は1300個強である。
仕上げ磨きは乳歯が生える時期から小学校低学年ごろまで、親が子供の歯を磨いてあげる親子の重要なコミュニケーションだが、それが嫌いで親が手を焼く子供も少なくない。
Possiはそんな問題をテクノロジーの力で解決することを目指した製品だ。ブラシを歯に当てると歯ブラシのヘッド部分から振動が伝わり、骨伝導によって音楽が聴こえてくる。好きな音楽という“魔法"で、子供の仕上げ磨き嫌いをなくす。