MEMS(微小電子機械システム)分野の旗艦学会「IEEE MEMS 2020(The 33rd IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」(2020年1月18~22日、カナダ・バンクーバー)で、東北大学教授の田中秀治氏が注目した講演について解説する。提案された新手法は、複雑な3次元構造の実現や低コスト化に期待がかかる技術だ。 (本誌)
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)分野の旗艦学会「IEEE MEMS 2020」に先立って開催された、「MEMS Industry Workshop」では、産業界から12件の講演が行われた。その中から3つの講演について解説する。
Boschが新プロセス提案
ドイツRobert Boschは、新たなMEMSプロセスである「EPyCプロセス」について講演した。EPyCとは「Epi-Poly-Cycle(エピポリサイクル)」の意味である。同社や伊仏合弁STMicroelectronics(ST)が使用し、現在の標準MEMSプロセスと言える「エピポリSi(シリコン)プロセス」とは異なるプロセスだ。
従来のエピポリSiプロセスは、製品の構造体を成す「構造層」に厚いエピポリSiを用い、サポート材のようにエッチングにより除去される「犠牲層」にSiO2(酸化シリコン)を用いる。一方、EPyCプロセスでは、エピポリSiを構造層と犠牲層の両方に用いる。
EPyCプロセスの製造工程(図1)では、まずエピポリSiを成膜、エッチングし、TEOS(Tetraethyl Orthosilicate、テトラエチルオルソシリケイト、Si(OC2H5)4)を用いたLPCVD(減圧化学気相堆積法)によってSiO2を狭い隙間を含めて全体的に成膜する。これを繰り返して多層構造を作る。
その後、犠牲層となるエピポリSiをXeF2(二フッ化キセノン)ガスでエッチングする。このとき、それを囲むSiO2がエッチストップとなる。最後に、SiO2を蒸気フッ酸(vHF)で除去する。
エピポリSi層の厚さは最大40µmで、20µmずつ2回に分けて成膜する。XeF2エッチングにかかる時間は15分程度と、従来のMEMSプロセスで犠牲層のSiO2をvHFエッチングする時間と比べて短い。また、全工程を通して、8インチウエハーの反りを±150µm以下に抑えることができるという。