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 韓国では新型コロナウイルス拡散防止のために、全国の小・中・高校が当初2020年3月2日に予定していた新学期の開始を1週間延期した。中国人留学生が多い大学では、冬休みを終えて中国から韓国に戻ってきた留学生を寮に集めて2週間隔離した。その間、毎日3食のお弁当とおやつ、消毒剤、マスクを大学の費用で提供する。大学の予算がない場合は自治体が補助することも決まった。韓国に入国していない中国人留学生には、休学を勧めたり、オンライン受講で単位が取れるようにしたりした。

 韓国の感染者数は、2月18日時点では31人で、そのうち数人は退院するなど落ち着いていた。しかし、ソウル市から車で3時間ほど離れた大邱(テグ)市で開催された1000人規模の宗教行事にスーパー・スプレッダー(通常よりも多くの二次感染を引き起こす患者)が登場。2月23日に感染者が600人を超えてしまった。この宗教行事に参加した人を経由して地域感染が進んでいる。韓国では同日時点で約6万人が新型コロナウイルスの検査を受けた。

製造業の工場もストップ

 展示会やカンファレンス、学会もほとんど中止となり、社内会議をテレビ電話で行う会社も増えた。大手企業や役所では建物の入り口に熱感知カメラが置かれており、1人ずつ並んで手に消毒剤を塗ってから中に入るように言われた。地下鉄やバスでは、ほぼ全員がマスクをしている。駅構内やバスの中には「マスクがない方は1人1枚無料で差し上げます」という案内ポスターが貼られていた。

 保健所で感染が確認された人の動線は、韓国政府機関の疾病管理本部が調べて同本部のWebサイトで公表しているほか、テレビや新聞で詳細に報じられている。公表された動線を確認して、同じ時間に同じ場所にいた人や感染の疑いがある人は、同本部につながる局番なし「1339」に電話して相談し、病院ではなく最寄りの選別診療所(感染者を選別するための診療所で、院内感染を防ぐために一般の外来診療と分けられている)に行きましょう、というテレビCMも延々と流れている。この「1339」では、韓国に住む外国人のための通訳サービスも提供している。韓国最大の地下ショッピングモール「COEX Mall」に行くと、デジタルサイネージに「手を頻繁に洗いましょう」「せきが出る人はマスクをしましょう」といった予防対策が韓国語、中国語、日本語、英語で表示されていた(図1)。

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図1 韓国最大の地下ショッピングモール「COEX Mall」
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図1 韓国最大の地下ショッピングモール「COEX Mall」
デジタルサイネージは全て新型コロナウイルス拡散予防に関する案内に切り替わっていた(上)。モールのあちこちに手指消毒剤が置かれていた(下)。(写真:筆者撮影)

 感染が確認された中国人観光客が買い物をしたロッテデパート本店は3日間臨時休業をして建物内を消毒した。同店が3日も休業したのは、1979年の開業以来初めてだという。同じく感染者が立ち寄ったとされるホテル、ディスカウントストア、スーパーマーケット、フードコートなどの商業施設は全て2日以上休業し、徹底的に防疫を行っている。休業は、政府の方針ではなく企業が自主的に決めている。これぐらいしないと顧客が戻って来ないので、損失を覚悟で臨時休業に踏み切ったという。

 製造業にも影響が出始めている。Hyundai Motor社の一部の工場では、中国から部品が届かず、7日ほど製造を中断せざるを得ない状況になった。LG Display社の中国工場は、感染拡大防止のために稼働を調整した。韓国内にあるSamsung Electronics社の携帯電話機工場では感染者が出て、消毒のために工場を2日間閉鎖した。