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新型コロナウイルス感染症対策として叫ばれる「3密」。密閉空間・密集場所・密接場面を避けることが感染予防の基本だが、編集部ではさらに、公共空間で不特定多数の人が同じ物を触る「密着」の回避も重要と考える。こうした対策ではテクノロジーの活用が威力を発揮する。アフターコロナの社会で求められる「断密テック」に迫る。

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって、日本国内では2020年5月31日まで緊急事態宣言が発令されている。最優先事項は、外出自粛などによって感染の拡大を早期に抑えることだが、それと同時に「アフターコロナ」に向けた対策の構築も重要だ。

 では、将来起こり得るパンデミック(感染症の世界的流行)の再来に備えて我々は何をやるべきか。密閉・密集・密接の「3密」に加え、「密着」によるウイルス感染の予防策を社会に実装する必要がある。その際に、テクノロジーの活用は不可欠になる。

 3密+密着による感染を防ぐ「断密テック」には、既に恒常化した技術から最先端の技術まで、様々なものが存在する(図1)。その中から新しい取り組みを中心に見ていこう。

図1 「断密」を実現するためのテクノロジー
図1 「断密」を実現するためのテクノロジー
密閉・密集・密接の「3密」に加え、不特定多数の人が同じ物を触る「密着」による感染拡大を避けるためには、多くの技術を活用できる。
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断・密閉

 まずは「密閉」による感染拡大を避けるためのテクノロジーを紹介する。密閉空間が問題になるのは、ウイルスが付着したまま空間内に滞留することだ。そこで対処方法の1つに挙げられるのが光触媒や紫外線(UV)光を用いた「殺菌・ウイルス不活性化」である。

 例えば光触媒による除菌は以前から行われてきたものの、一般的に使われていた光触媒の酸化チタンを反応させるためには太陽光や紫外線灯などの紫外光が必要だった。

 それを一般的な室内灯でも可能にしたのが、東芝マテリアルの「ルネキャット」だ。光触媒に酸化タングステンを用い、紫外光だけではなく可視光(室内光)でも高い光触媒効果を発揮できるとする。「ルネキャットの売れ行きは伸びており、増産を検討している」(同社)。2020年2月28日には外部機関で、同製品の新型コロナに対する抗ウイルス性試験を始めており、結果待ちの状況という。

実用化に近づく深紫外LED

 殺菌効果が非常に高く、ここ数年で研究成果が出始めているのが、より短い波長の深紫外光(DUV)である。深紫外光は、オゾン層で吸収されてしまい地上には存在しない。殺菌能力が高いのは、「265nm帯」と呼ばれる短い波長がDNAの吸収ピークと同じで、最も効率よくウイルスや細菌を退治できるからだ。

 この深紫外光を発するLEDは、以前から使われている水銀ランプに代わる次世代技術として期待されてきた。一方で、これまでの開発品の出力は数十mW程度と、水銀ランプの数Wに比べて大幅に低いという課題があり、実用化までには距離があった。

 その中で実用化に向けて頭抜けたのが、情報通信研究機構(NICT)が研究を進める265nm帯の深紫外LEDだ。単チップで既存品より1桁大きい500mWの出力を実現した(図2)。すでに数社の企業と製品化を進めており、「数年以内には出力500mWの深紫外LEDを搭載した製品を提供できる」(NICT未来ICT研究所 深紫外光ICTデバイス先端開発センター センター長の井上振一郎氏)とする。現在のチップを複数組み合わせれば水銀ランプと同等の出力を実現できるが、その分コストは高くなるため、単チップで水銀ランプの出力に追いつくことを目指す。

(a)NICTの高出力深紫外LED
(a)NICTの高出力深紫外LED
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(b)エキシマランプの深紫外線による殺菌・ウイルス不活性化ユニット
(b)エキシマランプの深紫外線による殺菌・ウイルス不活性化ユニット
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図2 高出力な深紫外LEDが実用化に向けて始動
NICTが研究開発を進める深紫外LEDは、出力が500mWと既存製品より1桁大きい性能を持ち、殺菌用途で従来の主流だった水銀ランプに迫りつつある。すでに製品化に向けて企業と共同開発中で、数年以内に実用化の見込みだ(a)。ウシオ電機はエキシマランプが発する波長222nmの深紫外線による殺菌・ウイルス不活性化ユニットの実用化に向けて、医療施設などで研究実験を開始した。人体に直接照射しても害がなく、公共施設や乗り物での利用も見込まれる(b)。(写真:NICT、ウシオ電機)