将来は65歳以上の5人に1人が発症するとされる認知症。超高齢化社会に突入する日本にとって、その対応は喫緊の課題だ。認知症を早期に発見して対策を施すために、AI(人工知能)などの最新技術への期待が高まっている。同時に、認知症の人が社会で自分らしく生活できるように支援する技術の開発も活発になってきた。テクノロジーで認知症に関する課題の解決に挑む企業の取り組みを追った。
「認知症の早期発見について、テクノロジーの貢献に期待している」(順天堂大学 医学部 脳神経内科の大山彦光准教授)─。
もはや「国民病」とも言える認知症は、早期に発見しようにも、診断が簡単ではない病気だ(図1)。明確な指標となる「バイオマーカー」がなく、初期と進行後で症状が異なることもある。問診や血液検査、画像診断などの結果を総合して医師が診断するが、「医療チームで議論して導き出した結論が、死亡後の病理診断で間違っていたこともある」(医師)という。
認知症は何らかの原因により認知機能に障害が発生し、日常生活が難しくなる状態の総称である。多いのが「アルツハイマー型認知症」で、現時点で根本的な治療法がないとされる。そのため早期に発見して、発症する前に何らかの対策を施すことが求められている。
そこで、AIなどの最新技術への期待が高まっている。認知症や、その前段階である「軽度認知障害(MCI)」、さらにMCIより前の段階の兆候を最新技術で見つけ出そうというわけだ。
テクノロジーで認知症に挑むのは、ベンチャー企業からIT企業、エレクトロニクス企業、保険会社まで多岐にわたる。いずれも認知機能の評価技術を活用した機器やアプリなどが新たな事業の創出につながると期待する。順天堂大学の大山氏は「企業が認知症対策に積極的に関わりたいとの姿勢がみえる。医療の内側だけでなく、外側から関心が高まっている」と話す。
各社に共通するのは、MRI(磁気共鳴画像装置)などの画像検査や血液検査といった手間やコストがかかる方法ではなく、視線や声、表情、家電操作、眼底画像などの簡便な評価手法の開発に挑んでいることだ。そこには「早期発見のためには多くの人が気軽に受けられる評価技術が欠かせない」「MRIなどで見つかる時にはすでに脳に変化が生じている可能性が高い。その前に見つけ出したい」などの問題意識がある。