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人工知能(AI)の研究は、生体の脳の機能をいかにモデル化(単純化)するかの研究でもある。この2年ほどで、これまでの深層ニューラルネットワーク(DNN)に比べて、より脳に近い「スパイキングNN(SNN)」が、省エネルギーでDNNを凌駕する結果を出すようになってきている。米国のIntel、IBMなどが研究開発に本腰を入れ始めている。

 AI技術の代表格だった深層ニューラルネットワーク(DNN)に強力なライバルが登場してきた。生体の脳神経細胞(ニューロン)の仕組みを、より忠実に取り入れた「スパイキングニューラルネットワーク(SNN)」である。

 SNNのスパイキングとは、“ニューロン"間でやり取りする信号の波形が、スパイク、つまり針状の突起のようであることによる。信号の強弱は、信号の大きさや振幅ではなく、頻度の多寡やタイミングなどで表現する。生体のニューロンが実際そうしたスパイク信号を用いていることを模倣したのである。この結果、SNNを実装した半導体回路は、「脳型(Neuromorphic)」と呼ばれることも多い(図1)。

図1 生体により近い脳神経モデルへ
図1 生体により近い脳神経モデルへ
脳型演算システムは実際には、スパイキングニューラルネットワーク(SNN)を実装した演算システムである。深層学習などに用いるDNNは、ニューロンの機能を単純化し過ぎており、脳型と呼ばれることはほとんどない。SNNでは特にシナプスを流れる信号を生体のそれに近づけた。さらに生体のニューロンの複雑な動作を詳細に再現することを目指す研究もあるが、1ニューロンの回路規模が非常に大きくなり、ネットワーク化や高集積化は容易ではない。(図:日経エレクトロニクス)
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 一方、DNNを構成する“ニューロン"は非常に単純化された「形式ニューロン」というモデルに基づいており、ニューロンが“発火するかどうか"は、ニューロン間の経路兼スイッチである“シナプス"の重みwiと信号xiの積和Σwixiの大きさで判定する。あまりに単純化されたためか、脳を基にしたAI技術ではあるものの脳型と呼ばれることはほとんどない。

 SNN以外にも脳型と言われるAI技術はある。具体的には、ニューロンの仕組みや動作を細部に渡って回路で再現することを目指す技術群だ。ただし、ニューロン1個の回路規模が非常に大きく、現時点では集積には向かない。集積可能な脳型ニューラルネットワークは当面、SNNしかないようだ。