2020年のVLSIシンポジウムは、実用化済み、または実用化寸前の技術の発表が減り、基礎研究への回帰色が強かった。3種類の強誘電体素子は実用化までの距離に差が出始めた。2値のニューラルネットワーク「BNN」を米Intelが発表するなど、現在の数百倍という超省エネルギー技術の実用化が見えつつある。
2020年の半導体関連技術の学会「IEEE 2020 Symposia on VLSI Technology and Circuits(以下、VLSIシンポジウム)」は当初、ハワイで開催される予定だったが、コロナ禍の影響でバーチャル、つまりオンラインでの開催となった。
各講演は事前に収録した動画を約2週間、ビデオオンデマンド(VOD)の形で参加者に提供された。加えて、「Executive Session(ES)」と呼ぶセッションでは、ポスターセッションのように各講演者が講演のダイジェスト版を短時間で紹介し、その後、参加者が講演者にリアルタイムに質問できる機会を設けた。ただし、システムや通信回線上の不具合で時間を変更して複数回の実施を余儀なくされたESもあった。
素子系の24%が強誘電体関連
今回のVLSIシンポジウムで目立ったのは、酸化ハフニウム(HfO2)ベースの強誘電体材料を用いた素子群についての発表だ。最近の半導体系学会ではこの素子に関する論文発表数が急増している1)。今回は合同セッションを含まないテクノロジーセッション全76件の採択論文のうち本誌調べで18件、23.7%を占め、いよいよ学会のメインテーマといってよい状況になってきた。
HfO2ベースの強誘電体材料の素子は大きく3種類に大別できる(図1)。1つがトランジスタ(T)1個と強誘電体材料で構成するキャパシター(C)1個、つまり1T1C型素子の強誘電体メモリー(FeRAM)、2つめが強誘電体層をゲート絶縁膜の一部に用いる1T型のFeFET、3つめが強誘電体層をトンネル素子として用いる1T1D(ダイオード)型素子のFTJ、である。それぞれ特徴と想定する用途、そして課題があり、今回のVLSIシンポジウムでも幾つかの半導体大手企業がそれら課題への取り組みを発表した。これまでの学会発表では、強誘電体材料自体の特性を調べるような基礎研究が多かったが、今回のVLSIシンポジウムでは、素子としての特性を評価する発表が目立った。