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新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、「NE主催 パワー・エレクトロニクス・アワード 2020」の贈賞式が2020年12月10日に開催された。例年のリアルのイベントではなく、オンラインの「パワー・エレクトロニクス・サミット 2020」の中で執り行われた。気候変動やCO2削減などの社会問題の解決に欠かせないパワエレ技術の重要性は高まるばかりだ。オンラインでの開催だったが、多くの聴講者が参加した。贈賞式と受賞記念講演のほか、特別講演の内容を報告する。

 日本の大学や高等専門学校(高専)の理工系研究室を対象にパワーエレクトロニクス(パワエレ)分野の優れた研究を日経エレクトロニクスが応援する「NE主催 パワー・エレクトロニクス・アワード 2020」。その開催を記念するイベント「パワー・エレクトロニクス・サミット 2020」が2020年12月10日に開かれた。2020年は、新型コロナウイルスの感染が拡大しているためオンラインでの開催となった。参加者数は431人と、例年と変わらない聴講者が参加した。東京都心への移動が不要なことから、日本各地の自宅や職場からパワエレの最新技術動向や最新トレンドに関する講演を、パソコンやスマートフォンなどの画面を介して視聴してもらえただろう。

 一般に、電子機器はパワエレ技術なしでは動作しない。それだけ重要な存在にもかかわらず、これまではLSIやソフトウエアなどのほかのエレクトロニクス技術と比べると注目度がかなり低かった。そのため、パワエレ技術は「縁の下の力持ち」と称されることが多かったようだ。ところが、そうした扱いも終わりを迎えようとしている。地球規模の気候変動やCO2の排出量削減などの社会問題を解決するには、パワエレ技術の活用が必要不可欠だからだ。もはや、パワエレ技術は縁の下の力持ちではなく、「時代の主役」に躍り出たといっても過言ではないだろう。

 当然ながら、大学や高専などのパワエレ研究も、こうした社会動向の影響を受ける。実際に今回のアワードでも、電力を効率的に活用する技術やCO2の排出量の削減につながる技術が複数件ノミネートされた(表1)。その中から、6人の審査員からなる審査会で、最優秀賞と審査員特別賞、読者賞の3件が選ばれた。

表1 ノミネートされた6件の研究成果
研究グループ名 記事のタイトル 技術の内容
筑波大学・岩室憲幸氏の研究グループ SBD内蔵SiC MOSFET、金属変更で実用化に道筋 現在SiC MOSFETは、コストや信頼性などの課題を抱えている。この課題を解決できる可能性を秘めているのがSBD内蔵のトレンチ型SiC MOSFET(SWITCH-MOS)である。ただし、従来のSWITCH-MOSは別の信頼性問題を抱えていた。それは破壊耐量が少ないことだ。そこで今回、シミュレーションと数値解析を駆使して原因を特定し、SBDの金属をTiからNiに変更する解決策を見出した。実際に、この解決策を適用したSWITCH-MOSを試作して評価することで、信頼性問題を解決できることを確認した。
茨城大学・鵜野将年氏の研究グループ 太陽光発電量を大幅改善、モジュラー構成補償器を考案 複数のサブストリングで構成した太陽光発電システムの場合、サブストリング間の発電量が不均一だと、発電量が最も少ないサブストリングの影響を受けて取り出せる電力量が大幅に減ってしまう。この問題を解決するのが補償器である。電力再分配器として機能する。今回は、スイッチトキャパシター方式のDC-DCコンバーターを多段接続するモジュラー構成の補償器を開発した。メリットは2つある。1つは小型軽量化と低コスト化が実現できること。もう1つは、コンデンサーの耐圧を低くできることだ。
北海道大学・小笠原悟司氏の研究グループ 高周波SiCインバーター基板、寄生成分を抑える設計を確立 SiC MOSFETの最大のメリットは、極めて高速なスイッチング動作が可能なことだ。その一方で、寄生成分の影響を受けやすくなるというデメリットもある。そこで今回は、寄生インダクタンスと浮遊容量の両方を低減できるプリント基板の設計方法を確立した。実際に、この設計方法を使ってSiCインバーターの主回路基板を試作した。その結果、従来の設計方法に比べてスイッチング時間を38%削減できた。寄生成分を削減した効果である。
早稲田大学・近藤圭一郎氏の研究グループ 燃料電池ハイブリッド車両、システムの最適化でコスト削減 CO2排出量が多いディーゼル車両。それを置き換える候補として期待されているのが、燃料電池とLiイオン2次電池で走る燃料電池ハイブリッド車両である。しかし現時点では、燃料電池のコストが高く、外形寸法が大きいため、日本国内では実用化に至っていない。そこで今回は、鉄道システムを最適化することで、燃料電池の搭載量を最小限に抑えてコストと外形寸法の低減を図った。さらに2次電池の容量削減と寿命の延長という付随的な効果も得られた。
茨城高専・長洲正浩氏の研究グループ 配線インダクタンスを有効活用、インバーターの短絡保護を実現 一般にパワー半導体モジュールには、エミッタ端子とは別にセンスエミッタ端子が設けられている。なぜならば、エミッタ電極とエミッタ端子の間には大きな配線インダクタンスが存在しているからだ。今回は、この配線インダクタンスをインバーターの短絡保護に利用する方法を開発した。オペアンプを使った積分器の回路構成を工夫することで、積分器で発生する誤差や配線抵抗の影響を排除して、インバーターの主電流を高精度で測定できるようになった。
京都大学・引原隆士氏の研究グループ GaN/SiCの実用化が後押し、電力パケットで電源をデジタル化 GaNやSiCといった材料を使ったパワーデバイスが持つ高速なスイッチング特性を生かして、直流電力をスイッチングすることで「電力パケット伝送」を実現した。電力パケットはヘッダー、ペイロード、フッターで構成した。直流電力はペイロードに収める。今回は電力パケットを生成するミキサーに加えて、ヘッダーやフッターの情報を利用して負荷に電力パケットを届けるルーターを試作し、実際に昆虫型ロボットを駆動したり、2kW出力の大型モーターなどを駆動して見せた。