全9320文字
PR

日経クロステック編集部と日経BP総合研究所のプロジェクトチームは、ドイツVolkswagen(VW)の電気自動車(EV)「ID.3」を分解した。同車は、VWがEV専用に作り上げた車両プラットフォームや、ソフトウエア中心の車両作りを目指して構築したソフトウエア開発基盤を初採用するなど、注目点が満載だ。ID.3の設計思想に迫った。

 新型の電気自動車(EV)を購入し、独自に分解調査する企画が第3弾を迎えた。日産自動車の「リーフ」、米Tesla(テスラ)の「モデルS」および「モデル3」に続き、今回、日経クロステック編集部と日経BP総合研究所のプロジェクトチームが、照準を合わせたのが、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)のEV量産車「ID.3」だ(図1)。これで日米欧の主要EVがそろい踏みしたことになる。

図1 プロジェクトチームが購入したVW「ID.3」
図1 プロジェクトチームが購入したVW「ID.3」
購入したモデルは「ID.3 1st Max」。VWが量販モデルの導入に先立って、20年9月に欧州市場で3万台を生産して販売した限定車「ID.3 1st」の最上位グレードだ。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 VWは、2019年5月に欧州市場でID.3の受注を開始したが、日本への導入予定は22年以降とまだ先だ。そこで、分解プロジェクトチームは欧州からの輸入を決断。分解・分析を行い、その実力を徹底調査した。

EV専用PF「MEB」を初めて採用

 「ID.3によってVWブランドの新時代が始まる」─。VWグループCEO(最高経営責任者)のHerbert Diess(ヘルベルト・ディース)氏は力を込める。ディーゼル不正からの立て直し策として、EVシフトに傾注する同社の命運を握るのがID.3なのだ。

 ID.3は、Cセグメントに属するハッチバックタイプの小型EVである。VWのEV専用プラットフォーム(PF)「MEB(英語名:Modular Electric Drive Matrix、ドイツ語名:Modularen E-Antriebs-Baukasten)」を同社で初めて採用したのが最大の注目点だ(図2)。MEBは、モーターとギアボックス(減速機)、インバーターを一体化した電動アクスルを車両後部に搭載した後輪駆動を基本とする。

図2 VWのEV専用PF「MEB」
図2 VWのEV専用PF「MEB」
床下に電池を敷き詰め、後部に電動アクスルを搭載する。ホイールベースを長くオーバーハングを短くすることで、車室や荷室の広さを実現した。(図:VWの資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 VWはID.3の発表以前、「e-up!」や「e-Golf」といった小型EVを展開してきた。だが、これらはいずれもVWグループの横置きFF(前部エンジン・前輪駆動)車用PF「MQB(横置きエンジン車用モジュールマトリックス)」を流用したEVだ。エンジン車とPFを共用したため、搭載スペースの都合による電池容量の小ささや車室内の居住性などに課題があった。

 これに対しMEBは、部品配置をEVに最適化することで、広い車内空間を確保した。リチウムイオン電池は床下に配置し、より多くの容量を搭載できるようにした。また、MEBでは電池容量は柔軟に変更できる設計にしたため、ID.3は、e-up!やe-Golfよりも大きい3種類の電池容量を用意する。電動アクスルや熱マネジメントシステムなどの部品共通化によるコスト低減も見逃せないポイントだ。

 VWグループは、29年までにMEBベースのEVを約2000万台生産する計画である。同社はMEBをVWグループで共用するだけでなく、提携する米Ford Motor(フォード・モーター)など、他社に外販することも発表している。生産規模を増やすことで、コスト低減を図る考えだ。

 ディース氏はID.3について、「(VWの主力Cセグメント車である)『Golf』のディーゼル仕様車と同等の価格帯を実現する」と宣言している。価格は3万1960ユーロから(1ユーロ=130円換算で約415万円)だが、ドイツではEVに対して補助金が出る。これを加味するとGolfのディーゼル車よりも安くなる。