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ほぼ無尽蔵ともいえるナトリウム(Na)イオンを使うNaイオン2次電池(NIB)の本格的な量産が近く始まりそうだ。出力密度の高さに加え、潜在的にはエネルギー密度でもリチウム(Li)イオン2次電池を超えるほど高い。定置型蓄電池では、比較的早い時期に主役の座に座る可能性も出てきた。

 「本当かどうか、まだ分からない」─。ナトリウム(Na)イオン2次電池(NIB)の研究者は、同分野の研究者やメーカーに衝撃が走った2021年5月のニュースをこう話す。ニュースとは、世界最大のLiイオン2次電池(LIB)メーカーである中国CATL(寧徳時代)の創業者兼CEOのRobin Zeng氏が同月21日の株主総会で、「我々が開発してきたNIBの技術が成熟し、量産可能になった。2021年7月にもNIBの製品を出荷する」と述べたという報道が中国国内外でなされた件である注1)

注1)ただし、同株主総会の投資家向け質疑応答の議事録では、全固体電池の開発状況に質問が集中したこともあり、NIBについての発言は確認できない。ちなみに全固体電池についてCATLは、「まだ克服すべき材料や技術上の課題が多く残っており、実用化時期をいえる状況ではない」と回答している。

 それが本当であれば、これまで少量の実用化例はあっても、軌道に乗り切れていないNIB市場にとって大きなインパクトがある。NIBへの注目度が高まり、市場がブレークする可能性が出てくるからだ。

潜在力はLIBを超える

 今、なぜCATLがNIBなのか。数多くの中国メディアの解説からは、中国ならではの事情が垣間見える。(1)中国で製造するLIB向けLi塩の“国内自給率”が20%に過ぎないこと、(2)悪化する一方の米中関係を背景に、Li塩の安定供給に不安が出てきたこと、(3)近い将来、爆発的に増えるLIBの需要に対して、Li資源の偏在が課題になりそうなこと、などだ。一方で、NIBのエネルギー密度は150Wh/kg程度で、高性能LIBの1/2程度と低い。ただし、(4)定置型蓄電池ではエネルギー密度の高さよりもコストの低さが重要で、コストの下げしろという点では、Naイオンがほぼ無尽蔵にあるNIBはLIBより有利である、と解説されている。NIBの特徴を積極的に評価したというよりは、リスク管理という側面が強いのかもしれない。

 (1)~(4)はいずれも的確な説明といえるが、それがNIBのすべてではない(図1)。

図1 ナトリウムイオン2次電池(NIB)のポテンシャルは既存のLIBを超える
図1 ナトリウムイオン2次電池(NIB)のポテンシャルは既存のLIBを超える
NIBのLIBに対する優位点と課題。NIBは元素の安定供給という点で優れる。出力密度もLIBを上回ることが多い。さらに耐熱性や引火のしにくさでも優れる。2020年12月にはLIBの黒鉛負極より容量密度の高いハードカーボンが開発された。一方、課題は、出力電圧が低かったことだが、新しい負極材料と組み合わせればエネルギー密度でLIBを上回る可能性も出てきた。(図:日経クロステック)
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 NIBにはLIBとの比較上、(5)出力密度を高めやすい、(6)耐熱性が高く、利用可能温度範囲が広い、(7)実は負極活物質の容量密度がLIBの負極よりも3割以上高い、といった優位性がある1)。最後の(7)は2020年12月に東京理科大学 理学部第一部応用化学科 教授の駒場慎一氏の研究室が発表した、新しいNIBの強みである。