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 岡山大学・平木英治氏の研究グループ 
磁界共鳴方式の実用化に道筋
周波数ずれの補償技術を開発

 送電コイルと受電コイルの間隔を数m離しても大きな電力を送ることができる磁界共鳴(磁界共振)方式のワイヤレス(無線)給電。この技術をMIT(Massachusetts Institute of Technology)が2006年に発表した際には、エレクトロニクス業界に極めて大きなインパクトを与えた。それ以降、ワイヤレス給電は一大ブームとなり、現在でも世界各地で研究開発が進んでいる。 

 すでに実用化された例もある。スマートフォンや電動歯ブラシ、コードレス電話機など向けの装置だ。ただし、「いずれの用途も送電コイルと受電コイルをほぼ接触させて電力を送るもの。送電コイルと受電コイルの距離を離して電力を送るシステムは、試作例は数多くあるが、実用化された例はほとんどない」と、岡山大学大学院 自然科学研究科 教授の平木英治氏は指摘する。

「ATAC」を受電器に搭載

 なぜ、コイル同士を離した状態での送電が難しいのか。その理由は、磁界共鳴方式を実現する条件を満たし続けることが難しい点にある。磁界共鳴方式ではその名の通り、共振現象を利用して電力を送る。離れた受電器に大きな電力を送るには、電源(高周波インバーター)の出力周波数と、送信器の送電コイルと共振コンデンサーの共振周波数、受電器の受電コイルと共振コンデンサーの共振周波数の3つをピタリと一致させ続けなければならない。

 この条件を満たし続けることは、実験室の試作品ならいざ知らず、市場に投入する製品では難しい。なぜならば、受電器の共振周波数がずれてしまう要因が4つ存在するからだ。第1にコイルのインダクタンスや共振コンデンサーの静電容量の製造ばらつきや経年変化によるずれ。第2に受電器の負荷抵抗の変動によるずれ。第3に受電器の位置が動くことによるずれ。第4に複数の受電器間の磁気干渉によるずれである。これらの要因で共振周波数がずれれば、受け取れる電力は極めて小さくなる。これでは実用化は困難だ。

 そこで平木氏の研究グループは、4つの要因による共振周波数のずれを補償する技術の開発に着手した。採用した技術は「ATAC(Automatic Tuning Asist Circuit)」だ1)。これは電流の位相を調整することで、コンデンサーの容量を等価的に変化させる回路である。1個のコンデンサーと2個のスイッチ素子で構成しており、2つのスイッチ素子をオン/オフするタイミングを制御することで電流の位相を調整する。「アドバンテストが送電器向けに開発した回路技術だが、これを受電器に応用した」(同氏)。

 図1はワイヤレス給電システムの構成図だ。使用する周波数帯域はISM帯の6.78MHz。1個の送電器から2個の受電器に対して電力を送る。ATACは各受電器に搭載する。なお、ATAC制御回路で使う基準信号は、送信器に流れる電流の位相情報を利用した。具体的には、送信器に流れる電流の位相情報を検出し、それを無線伝送して各受電器のATAC制御回路で使う。

図1 ATACを採用したワイヤレス給電システム
図1 ATACを採用したワイヤレス給電システム
部屋などの空間にある複数のモバイル機器に同時にワイヤレス給電する用途を想定したシステムである。1個の送電器と2個の受電器で構成した。ATACは各受電器に組み込んだ。送電器には、電流振幅を一定に保つ定電流振幅電源を搭載した。(図:平木氏)
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 ATAC制御回路では、受電器に流れる電流が最大になるように2つのスイッチ素子の動作タイミングを調整する。いわゆる「山登り制御」である。この制御を実行すれば、各受電器に流れる電流は同相で、送電器に流れる電流の位相と比べると90度進んだ状態を維持し続けられる(図2)。言い換えれば、最大の電力を受け取り続けられる。

図2 送電器の電流と受電器の電流の位相関係
図2 送電器の電流と受電器の電流の位相関係
ATACを使って受電電力を最大化すると、2つの受電器に流れる電流はそれぞれ同相となり、送電器に流れる電流と比べると位相が90度進む。(図:平木氏)
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