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 豊田工業大学・藤崎敬介氏の研究グループ 
GaNによるモーター駆動を評価
高周波成分で新たな鉄損を発見

GaN FETを採用した3相インバーター。(図:藤崎氏)
GaN FETを採用した3相インバーター。(図:藤崎氏)
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 電気自動車(EV)などのモーターの駆動に向けたインバーターでも、GaN FETの適用に向けた研究開発が進んでいる。GaN FETのスイッチング動作は極めて速い。製品によっては、1nsと短い立ち上がり時間を実現できる。インバーターに適用すれば、スイッチング損失を減らせるため変換効率を高められたり、装置全体の体積を削減できたりするメリットが得られる。

 しかし、得られるものはメリットだけとは限らない。それは負荷であるモーターにおいて、高速動作による影響で鉄損(モーターコア損)が増大するというデメリットだ。豊田工業大学 大学院工学研究科 教授 藤崎敬介氏は、「その鉄損は、決して無視できる大きさではない。パワエレ技術者は、とかくGaN FETの採用によるスイッチング損失の削減だけに注目しがちだが、今後は負荷であるモーターを含めて考えてほしい」と指摘する。

リンギング鉄損が増大

 GaN FETの採用によって鉄損が増える原因は、負荷での共振現象にある。負荷はそれぞれ異なるアドミタンスの共振周波数を持つ。例えば、藤崎氏の研究グループが実験に使ったリング試料は11.9MHz付近に共振周波数が現れる。リング試料とは、リング状の電磁鋼板(35H350)に巻線を施したもの。構造が単純であるため、インバーターを評価する際に、複雑な構造のモーターの代わりとして使われる。

 同氏はこのリング試料に対して、インバーターを使って駆動波形を印加する実験を行った(キャリア周波数は20kHz)。インバーターは2つ用意した。Si製IGBTを使ったインバーターとGaN FETを採用したインバーターである。

 まずはインバーターで実験した。IGBTの立ち上がり時間は1.34µs程度と長く、駆動信号には数MHz帯までの高調波成分しか含まれていない。リング試料の共振周波数である11.9MHzには届かず、共振現象は発生しない。このため駆動電圧/電流波形にはリンギングがほとんど現れない。

 次にGaN FETを採用したインバーターで駆動波形を印加した。GaN FETの立ち上がり時間は短く、使用した素子では30.3nsである。このため駆動波形には300MHz程度の高調波成分まで含まれており、リング試料の共振周波数である11.9MHzと重なるので共振現象が発生する。この結果、駆動電圧/電流波形には極めて大きなリンギングが重畳される。

 このリンギングが鉄損を増大させる。同氏は、この鉄損を「リンギング鉄損」と呼ぶ。リンギング鉄損は、インバーターのキャリア周波数を高めれば高めるほど増大する。共振現象によるリンギングは、キャリア周波数で決まる周期でパルス状の駆動電圧を印加するたびに発生するからだ。GaN FETをインバーターに搭載する場合、高速な特性を積極的に利用するため、キャリア周波数を高めに設定するのが一般的だろう。もちろんキャリア周波数を高めれば、それによるキャリア鉄損が減少するが、その一方でリンギング鉄損が大きく増えることになる。

GaN FET普及の鍵を握る

 キャリア周波数を高めることで、リンギング鉄損はどの程度増えるのかを確認するため、0.4kW出力の3相永久磁石モーターを使って実験した1)。この実験でも、IGBTを搭載したインバーターと、GaN FETを採用したインバーターを使った(図1)。

図1 誘電モーターの鉄損を測定
図1 誘電モーターの鉄損を測定
Si製IGBTを採用したインバーターとGaN FETを搭載したインバータを使って、4kW出力 の3相誘導モーターを駆動し、鉄損を測定した。(図:藤崎氏)
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 永久磁石モーターのアドミタンスの共振周波数は27MHz付近にある(図2)。このためIGBTインバーターで駆動した場合、共振現象は発生せず、電圧波形にはリンギングがほとんど現れなかった。しかし、GaN FETインバーターで駆動した場合は、駆動信号に300MHz程度の高調波成分が含まれているため、共振現象が発生した。電圧波形にかなり大きなリンギングが載る結果になった(図3)。

図2 誘導モーターのアドミタンス特性
図2 誘導モーターのアドミタンス特性
共振周波数は約27MHzである。(図:藤崎氏)
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図3 駆動電圧波形
図3 駆動電圧波形
(a)はSi製IGBTを採用したインバーターで駆動した場合。リンギングはほとんどない。(b)はGaN FETを採用したインバーターで駆動した場合である。比較的大きなリンギングが現れている。(図:藤崎氏)
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 キャリア周波数を変えてモーターコア損(鉄損)を測定した結果が図4である。キャリア周波数が1kHzの場合は、50/60Hzの基本波による鉄損(基本波鉄損)とキャリア鉄損の和が大半を占める。しかし、キャリア周波数を高めていくと、基本波鉄損とキャリア鉄損の和は減少するが、リンギング鉄損が急激に増える。キャリア周波数が500kHzのケースでは、モーターコア損(鉄損)のうちリンギング鉄損が実に4割程度を占める。これは無視できない大きさだ。何らかの対策が必要になる。

図4 モーターコア損の内訳
図4 モーターコア損の内訳
キャリア周波数が500kHzと高いケースでは、モーターコア損(鉄損)の4割程度をリンギング鉄損が占める。(図:藤崎氏)
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 現在、藤崎氏はこのリンギング鉄損への対策技術の開発に取り組んでいる。それと同時に、GaN FETの高周波特性に合った磁性材料の試作にも着手している。

参考文献
1)Nguyen Gia Minh Thao, Kojima H., Sugimoto T. and Fujisaki K. , “Investigation of Effects of Rising and Falling Time, Ringing Phenomena and Dead Time in GaN Inverter on Iron Loss with Very High Sampling Rate,” 2021 International Symposium on Electrical and Electronics Engineering(ISEE), pp.232―237, Feb. 2021.