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 神戸大学・三島智和氏の研究グループ 
小型医療機器向け無線給電
高周波アクティブ整流で小型化

 ワイヤレス(無線)給電の用途は幅広い。代表的な用途には、スマートフォン(スマホ)や電気自動車(EV)、無人搬送車(AGV)などが挙げられるだろう。しかし潜在的な用途はほかにもある。人体に埋め込む心臓ペースメーカーや、口から飲み込むカプセル内視鏡などの小型医療機器だ。ワイヤレス給電を心臓ペースメーカーに適用すれば電池の交換不要になり、カプセル内視鏡に使えば現在よりも広い範囲を検査できるようになる。

 神戸大学 大学院海事科学研究科 海事科学部 マリンエンジニアリング学科 准教授 三島智和氏の研究グループは、小型医療機器などに向けたワイヤレス給電の研究開発に取り組む。このワイヤレス給電には、様々な制約条件が存在する。例えば、受電器は人体に埋め込んだり、飲み込んだりするため、究極の小型化が求められることだ。複雑な電源回路の搭載は難しい。

GaN FETで高効率に

 三島氏は、制約条件に満足すべく、大きく2つの技術を開発した。1つは、受電器(2次側)に向けた「高周波アクティブ整流回路」である1)図1)。この回路は、上アームを2個のダイオードで、下アームを2個のGaN FETで構成したもの。これだけで整流回路とDC-DCコンバーター回路の役割を担える。受電器の構成を大幅に簡略化できる。

図1 高周波アクティブ整流回路
図1 高周波アクティブ整流回路
2次側は、上アームを2個のダイオード、下アームを2個のGaN FETで構成した。これらが整流回路とDC-DCコンバーター(D級コンバーター)回路の役割を果たす。(図:三島氏)
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 この回路における課題はGaN FETのオン/オフ制御にある。制御が複雑になると、回路構成が簡素というメリットが薄れるからだ。そこで同氏は、シンプルな制御方法を開発した。オフからオンへの切り替えは、GaN FETの擬似ダイオードモードを利用する。つまり、ドレイン-ソース間電圧のしきい値を超えたら自励式でターンオンする。オフへの切り替えはPWM(Pulse Width Modulation)信号を使う。出力電圧を監視し、それが一定になるようにPWM信号のパルス幅を決め、そのタイミングでオフする。こうすることで、85kHzと高い周波数のまま整流しながら、出力電圧を一定に保つDC-DCコンバーター機能を実現した。

 実際に電磁誘導方式(磁界共振方式)のワイヤレス給電システムを試作し、入出力間のシステム効率を測定した(図2)。送電コイルと受電コイルのエアギャップ長は5cm。送電周波数は85kHz、出力電力は最大700Wである。GaN FETの採用に加えて、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)方式の導入で効率を高めた。システム効率は93.0%と高い。スーパージャンクション型パワーMOSFETを使った場合は92.0%だった。受電器の電力損失を分析した結果が図3である。「GaN FET採用で導通損失は抑えられたが、上アームに使ったダイオードの導通損失が比較的大きい。今回は一般的なファスト・リカバリー・ダイオードを使ったが、今後はより低損失なダイオードの採用で高効率化を目指したい」(同氏)。

図2 変換効率
図2 変換効率
GaN FETに加えて、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)動作を採用した場合、システム効率は93.0%が得られる。スーパージャンクション(SJ)型パワーMOSFETの場合は、ZVS動作を使っても92.0%だった。(図:三島氏)
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図3 2次側の損失分析
図3 2次側の損失分析
GaN FETの採用で導通損失を抑えた。ただし、ダイオードの導通損失が大きい。(図:三島氏)
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 もう1つは送電器向け技術だ2)。2つのアイデアを盛り込んだ。1つは、ΔΣ変調を活用したPDM(Pulse Density Modulation)信号で、2次側の出力電圧を1次側で調整するアイデアだ。「ΔΣ変調を使うことでランダムなパルスパターンを生成できるため、出力電圧調整の分解能を高められる」(三島氏)。2つめのアイデアは共振周波数の追従制御技術である。送電コイルと受電コイルのエアギャップ長が変動すると、共振周波数が変わるため2次側への送電電力が極端に減る。こうした事態を防ぐため、共振周波数を監視して、これに高周波インバーターの出力周波数を常に一致させる制御方式を導入した。

 制御方式は以下の通りだ。まずは、1次側の高周波インバーターから出力側をみた駆動点インピーダンスを求める。次に、送電コイル電流と、高周波インバーターの出力電圧情報の代わりとなる制御回路内の位相同期ループ(PLL)の出力パルス信号をフィードバックする。これらを使って、高周波インバーターの出力周波数を調整して、駆動点インピーダンスがゼロになるように制御する。こうすれば、共振周波数と、高周波インバーターの出力周波数を一致させられる。

 この2つのアイデアを使えば、電力損失を削減できるほか、ZVSを実現できるエアギャップ長の範囲を広げられる。実験では、10~15cmと広い範囲でZVS動作が可能なことを確認済みである。今後三島氏らは、2つの電源関連技術を統合した小型医療機器向けワイヤレス給電システムの開発に取り組む考えだ。

参考文献
1)Mishima T. and Morita E. “High-Frequency Bridgeless Rectifier Based ZVS Multiresonant Converter for Inductive power Transfer Featuring High-Voltage GaN-HFET,” IEEE Transaction on Industrial Electronics, Vol.64, No.11, pp.9155―9164, Nov. 2017.
2)三島智和, 木戸達也, 「固有振動に基づくバーストモードPDM制御非接触給電D級共振形コンバータ」, 電気学会論文誌D(産業応用部門誌), Vol.139, No.3, pp.239―248、2019年3月.