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 鹿児島大学・山本吉朗氏の研究グループ 
電動パワステの冗長回路方式
小型/低コスト化技術を開発

今回の制御方法を使えば、2相変調法や零相電圧相違法に比べてコンデンサー電流(実効値)を低減できる。(図:山本氏)
今回の制御方法を使えば、2相変調法や零相電圧相違法に比べてコンデンサー電流(実効値)を低減できる。(図:山本氏)
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 電動パワーステアリング(EPS)では、永久磁石同期モーター(PMSM)を駆動するインバーターを2台用意することでシステムの二重化を実現している。いわゆる「ダブルインバーター」だ。一方のインバーターが故障しても、もう一方だけでモーターを駆動し、ハンドルを操舵する際のアシスト力を得る。これで近くの修理工場などにたどり着けるようにする。ただしインバーターを2台搭載するため、その分だけ外形寸法やコストは増えてしまう。信頼性の確保のためにやむを得ないが、増加幅はできる限り小さくしたい。

 ダブルインバーターをいかに小型/低コスト化するのか。鹿児島大学 大学院 理工学研究科 電気電子工学専攻 教授 山本吉朗氏の研究グループは、構成部品である平滑コンデンサーと電流センサーに着目した。平滑コンデンサーを小型化するには、充電/放電電流を抑えればいい。そうすれば、容量が小さいAl電解コンデンサーが使えるようになるからだ。

 電流センサーは、モーター制御のフィードバック情報を検出する役割を担う。カレントトランスは精度が高いが、外形寸法は大きく、コストが高い。そこで同氏らは外形寸法が小さく、コストが低いシャント抵抗への置き換えを試みた。具体的には、3相の各下アームに挿入した3個のシャント抵抗で電流を検出する「下アーム3シャント方式」と、3相の下アームを束ねた母線に挿入した1個のシャント抵抗で電流を検出する「母線1シャント方式」を検討した(図1)。

図1 下アーム3シャント方式
図1 下アーム3シャント方式
二重3相永久磁石同期モーター(PMSM)の駆動に向けたダブルインバーターに下アーム3シャント方式を適用した。(図:山本氏)
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コンデンサー電流を削減

 下アーム3シャント方式を適用したダブルインバーターは、すでに様々な研究機関で開発が進んでいる。しかし、「下アーム3シャント方式の適用と、平滑コンデンサーの小型/低コスト化を同時に実現する制御方式はまだ開発されていない」(山本氏)。

 これまで開発されていた制御方式は「零相電圧相違法」である。u相、v相、w相という3相のうち1相を0に固定し、残る2相だけを三角波で変調する「2相変調法」の適用に加えて、3相それぞれにまったく同じ値の電圧(零相電圧)を与える方法を組み合わせたものだ。ただし一方のインバーターは出力上限に張り付かせる電圧を、一方のインバーターには出力下限に張り付かせる電圧を与える。

 零相電圧相違法を使えば、ダブルインバーターを高精度で駆動できる。しかし、2つのインバーターの平滑コンデンサーから同時に放電する期間が存在するため、大きな放電電流が流れてしまう。平滑コンデンサーの小型/低コスト化は実現できない。

 そこで制御方式に新たな工夫を盛り込んだ(図2)。工夫のポイントは2つ1)。1つは、変調に使う三角波の位相を2つのインバーターで180度ずらしたこと。この結果、一方のインバーターのスイッチングは1周期の中心に集められ、もう一方は1周期の外側に寄せられるため同時に放電する期間をなくせる。もう1つは、電流を検出する期間を設けたことだ。相電圧がゼロだと電流を検出できない。そこで電流検出に必要な約10µsの期間だけ、小さな電圧を零相電圧として各相に加えた。こうして高精度な電流検出を可能にした。

図2 2つの工夫を盛り込む
図2 2つの工夫を盛り込む
従来の制御方式に対して、2つの工夫を盛り込んだ。1つは、2つのインバーターにおいて三角波の位相を180度ずらしたこと。もう1つは、電流を検出する期間を設けたことである。(図:山本氏)
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 実際に、下アーム3シャント方式を適用したダブルインバーターを、開発した制御方式で駆動した。タイトル横の図は、平滑コンデンサーに流れる電流の測定結果だ。この制御方法を使えば、2相変調法や零相電圧相違法よりもコンデンサー電流を抑えられる。

 母線1シャント方式は、シャント抵抗を1個しか使わないため、下アーム3シャント方式を上回る小型/低コスト化を狙える。しかし、下アームがすべてオフの場合は、母線に電流が流れないため電流を検出できない。この結果、モーターのトルクリップルが増大する。そこで同氏は、上アームを駆動するPWM信号のパルスパターンを工夫した2)。詳細は割愛するが、この方法を使えば従来方式に比べてトルクリップルを大幅に抑えられる。モーターの駆動性能を劣化させることなく、小型/低コスト化が可能になる。

参考文献
1)森辰也, 山本吉朗, 「下アームシャント電流検出ダブルインバータにおける直流リンク部コンデンサ電流低減スイッチング法」, 電気学会論文誌D(産業応用部門誌), vol.138, No.12, pp.933―943, 2018.
2)森辰也, 古川晃, 山本吉朗, 「二重三相PMSM駆動用1シャント電流検出ダブルインバータにおけるトルクリップルを低減するパルスパターン」, 電気学会論文誌D(産業応用部門誌), vol.138, No.5, pp.442―452. 2018.