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22個ものキャパシター群

 1層目基板上の平滑用アルミ電解コンデンサーは、1つの静電容量が220µFで、計22個を並列接続しているため全体の静電容量は4840µFとなる(図12)。一般的なEV用三相インバーターが600µ〜1000µFと考えれば、非常に大きいといえる。

図12 1層目の基板には受動素子が載る
図12 1層目の基板には受動素子が載る
下部ケースの1層目の基板の表面と裏面。平滑用アルミ電解コンデンサーなどの受動素子が載る。ICのピンヘッダーが貫通して出来た穴は、裏面で非常に丁寧にはんだ処理されていた。(写真:山本真義)
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 これだけ大きなキャパシター容量を確保した理由は、駆動用モーターのレゾルバの検出精度を担保するためだと考えられる。実は宏光MINI EVのレゾルバは、性能があまり良くない。そのため、もしキャパシター容量が少なくて、入力される三相電流がうまく平滑化されていないと、出力電流の検出位相がずれてしまい、アルミ電解コンデンサーの電圧リプルのピーク値が大きくなる。つまり、三相電流における電流値の大きな相の電流流入分により平滑キャパシターの電圧ピークが増大してしまう。そのため、耐圧の大きなパワー半導体を使う必要がある。

図13 樹脂カラーで固定して耐振性を向上
図13 樹脂カラーで固定して耐振性を向上
固定用絶縁樹脂カラーの外観。構造固定用のACバスバーの根元に取り付けて、耐振性をさらに向上させている。(写真:山本真義)
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 今回の宏光MINI EV用インバーターにおいては、その価格を抑制するため、150V耐圧品のパワー半導体を適用することを前提とし、22個ものアルミ電解コンデンサーを使用することで受動的に電圧リプルのピーク値を抑制していると考えられる。

 22個ものキャパシターを設置すると、当然振動による破損リスクが高くなる。その対処として、前述の耐振用のACバスバーをさらに樹脂カラーで補強していることも判明した(図13)。この樹脂カラーは絶縁性で、ACバスバーの根本に取り付ける。ACバスバーはT字型の形状になっていて根本が横長のため、ACバスバー1本につき2つの樹脂カラーを用いる。こういった些細な部分に気を払っていることも設計力の高さの表れだ。

 なお、パワー回路基板の1層目にゲートドライブ回路が実装されているが、そのゲートドライブ基板と2層目基板は、図10の右側にあるピンヘッダーで力学的に接続されている。すなわち、1層目と2層目の各基板は、はんだ接合はされていない。この接合設計により、はんだの剥離防止に加え、量産の工数削減や生産ラインの簡略化が可能となり、インバーターの低価格化に大きく貢献している。