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 液晶パネル(LCD)は2000年代後半以降ずっと世界で10兆円を超える市場規模を誇る。中でも2021年は、最高の年だったようだ。富士キメラ総研によれば、同年のLCDの世界市場規模は新型コロナウイルス感染症の拡大による“巣ごもり需要”で大型パネルの需要が2020年比で1.8倍と大幅に増えた。市場規模は関連部材も含めると約16兆円に上る。

 しかし、同社は今後、LCD市場は衰退していくとみる。スマートフォンやタブレット端末向けの中小パネルではアクティブマトリクス型有機EL(AMOLED)ディスプレーに市場規模で逆転を許し、大型パネルでもAMOLEDの勢いに押されることで、横ばいから縮小に向かう予測だからだ。具体的には2026年のLCD関連市場は12兆円台にまで縮小すると見積もる。

 しかもAMOLEDの後ろには、量子ドット(QD)-ELディスプレーやマイクロLEDディスプレーなど新技術が目白押しで、これらが台頭してくればディスプレー用途のLCD市場の縮小が加速する可能性が高い。

3Dプリンター市場が転職先に

 ただし、LCDはディスプレーとはまったく別の新たな成長産業に“転職先"を見つけた。印刷を重ねて3次元(3D)の造形を実現する3Dプリンター市場である。同市場は、多くの調査会社が当面、年率20%以上の高度成長を続けると予測している。

 ちなみに、3Dプリンターはその造形方式によって(1)光硬化樹脂を光で硬化させる光造形、(2)粉体をレーザー光などで焼結するSLS(選択的レーザー焼結または粉体焼結)、(3)加熱して溶かした樹脂をノズルから射出するFDM(熱溶解積層)の3つに大別できる(図1)。さらに細かな実現技術の違いを考慮すると14以上の実現技術がある。これらは1層分をみれば、その名の通り“印刷"で、方式の多様さは印刷技術が多様であることを反映している注1)

図1 老舗の光造形方式に新登場したLCD型が低価格帯市場を席巻
図1 老舗の光造形方式に新登場したLCD型が低価格帯市場を席巻
3Dプリンターの3大造形方式の比較(a)と開発の歴史(b)。光造形方式は3Dプリンターの事実上初めての造形方式。1980年当時、名古屋市工業研究所の研究員だった小玉秀男氏が考案した。SLS(選択的レーザー焼結)やFDM(熱溶解積層)などの方式に比べ、造形速度は最高100倍と速く、解像度や表面の滑らかさでも同価格帯の他方式3Dプリンターを大きく上回る。特に最近は、液晶パネル(LCD)を用いた光造形方式(LCD型)が登場し、低価格帯3Dプリンターの大きな一角を占めるようになってきた。(表など:日経クロステックが作成)
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注1)最近は3大方式の融合も始まっている。具体的には、ベースはFDMながら、樹脂に光硬化樹脂を加えて、射出後に光で瞬時に硬化させる“光硬化型FDM”技術などが製品化されている。

 光造形方式は3Dプリンターの最初の実現技術である注2)。この方式の発明者は当時、名古屋市工業研究所 企画課の小玉秀男氏だった注3)。現在の製品の主流は材料選択の自由度が大きいFDM方式だが、最近になって中小型の装置では高解像度、高速を低価格で実現できる光造形方式が新たに2種類開発され、市場シェアを奪い返しつつある。

注2)3Dプリンターの特許技術としては1971年の「Liquid Metal Recorder(LMR)」が先。これは金属粉を混ぜたインクを帯電させ、印刷面に着弾させるいわゆる電着塗装の一種である。後のFDM方式の一種ともいえるが、発表当時はそれほど評価されず、実用化もされなかった。光造形方式の3Dプリンターが世に出て初めて、LMRまたはFDM方式にも脚光が当たった格好である。
注3)小玉氏は当時、幾つかの方式の「XYZプロッタ」を考案した。その1つが光硬化樹脂を用いた光造形方式である。より詳しくいえば、液槽の上から光を照射する「上面露光」タイプで、1980年に特許を申請し、翌年公開された。ところが、海外には特許申請しなかった。国内でも出願審査請求を怠ったために、特許権は無効になってしまった。小玉氏はほかにも、SLSに相当する方式なども考案したが、特許を申請せずにやはり海外勢にライセンスなどの権利を譲る結果になった。ただし、小玉氏は光造形方式の3Dプリンターの発明者として世界的に認められていて、1995年には英国での光エレクトロニクス関連の賞「Rank(ランク)賞」を受賞している。

 新たな2種類の光造形方式とは、具体的には、2012年に開発されたプロジェクターを使うDLP(Digital Laser Processing)型、そして2016年に開発されたLCDを使うLCD型である。LCDの転職先とは後者、つまりLCD型光造形方式の3Dプリンターのことだ。