2023年1月初頭に開催された、世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」(2023年1月5~8日、米国ラスベガス)。ソニーグループの展示の主役は、ソニー・ホンダモビリティが初披露したEV(電気自動車)の新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」のプロトタイプだった。一方、パナソニックホールディングスは、同社が2022年に発表した環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を改めてアピールし、ブースでの展示も環境対策技術を中心に据えた。ソニー・ホンダモビリティ代表取締役社長兼COO(最高執行責任者)の川西 泉氏の独占インタビューと、国内報道陣向けのラウンドテーブル(質疑応答会)に臨んだ、パナソニックホールディングス執行役員グループCTO(最高技術責任者)の小川 立夫氏の発言を紹介する。
ソニー・ホンダモビリティ 川西 泉社長
今回のプロトタイプを開発するに当たって最も重要視した部分はどこか。
基本的な考えとして、人とモビリティーの関係はどうあるべきか、これまでの移動のためのツールからもう少し違う世界をモビリティーで実現できないかということが起点にある。
具体的には、将来やってくる自動運転時代を見据え、人が運転という行為から解放されたときに、移動はしているけど運転はしていないという時間をどのように費やしていくかという部分に注力した(図1)。
完全な自動運転の実現にはまだ時間がかかるが、そこに至るまでの過程で、前述のような要素が今後増えていく。モビリティーがよりインテリジェント(知力)化していくなかで、その可能性をどれだけ提案していけるかが勝負のポイントになる。
これまでのクルマは馬力やスピードといった運動性能を中心に競争してきた世界だが、私はこれからはインテリジェンスを強化していくべきだとずっと考えてきた。知力の発達によって、より人に寄り添えるモビリティーになるからだ。
この部分が、モビリティーの世界で当社がユニークさを発揮できる点だと考えている。もちろん、安全性の面で運動性能も重要で、そこが今回ホンダさんと協業している最大の理由だ。それを踏まえたうえで、高度な知力をモビリティーに搭載したい。
この方向性に関してホンダと議論を重ねてきたのか。
もちろん、これまでにさまざまな議論を重ねてきたが、もともと「普通のクルマを造ってもしょうがない」という考えは両社で一致していた。そのなかで、具体的に「それは何だ」という部分を話し合っていく過程で、方向性を共有できてきたと考えている。
それを実際にどう表現していくかについて、クルマとしてどうまとめていくかの部分では、ホンダさんの知見が生きていくし、逆にどういう色を付けていくかに関してはソニーが持っているエンターテインメント関連の技術であったり、コンテンツが生きてくると思う(図2)。
これまで犬型ロボット「aibo」などの開発を手掛けてきた川西さんは、AFEELAをクルマというよりはロボットとみなして開発を進めているのか。
突き詰めると、AI(人工知能)とロボティクスだ。もともとソニーグループでEVコンセプトカーの「Vision-S」を開発しているときも、aiboもドローンも基本的な概念は同じという説明をしていて、今回もその延長にある。この点については、ホンダさんも共感していると思う。
コンセプトとプロトタイプの中間点
今回のプロトタイプで最も特徴的なのが「Media Bar(メディアバー)」。エンタメ的な要素として「スパイダーマン」の映像を表示したりしているが、川西さんの狙いは何か。
今回はさまざまな可能性をMedia Barに感じてもらいたいということで、そのような映像を表示したりしたが、これまでとはまったく違うことをいろいろな人に考えていただきたい。「モビリティーが自己発信する場」にしたい(図3)。
もちろん、Media Barを単なるサイネージ広告として使うことを想定しているわけではない。AFEELAに乗っている人やAFEELA自身が外部に対して自分を表現する場にMedia Barをしたい。
例えば安全面では、クルマが近づいていることを外にいる人に知らせたりできるし、周囲に人が歩いていることを感知して運転者に知らせたりすることもできる。クルマの内外の関係性を賢く認識できるツールにしたい。この付加価値についてはさまざまな人と話し合いながら育てていく。
ところで、今回のプロトタイプは2025年の発売をどこまで意識したものになっているのか。
「開発の何%までできているのか」とよく聞かれるが、正直、それについて話すところまではきていない。ただし、単なるモックアップではなく、実際に走行も可能だ。
かといって量産の手前まではきていないので、コンセプトとプロトタイプの中間点といったところだ。仕様がフィックスしているわけではなく、検討要素はまだ残っている。
LiDARが1個になった理由
Vision-SにはLiDAR(レーザーレーダー)が4個搭載されていたのに対し、AFEELAでは1個しか搭載されていない。これは製品化を見据えて、より現実的な仕様になっているということか。
LiDARの数は直接、製造コストに跳ね返る。Vision-Sでは前方用を車体下部に付けているが、それだと効果的に測距をする点で限界がある。なるべく高い位置にLiDARを取り付けた方が効果的なのは明らかなので、今回は思い切って屋根にもっていった。できれば車体後部にもLiDARを付けたいが、まずはそこを1つにまとめる。それが第1号車としてのスペックになる。
AFEELAには45個のセンサー(初代「Vision-S」は33個、「VISION-S 02」は40個)を搭載しているが、データの処理にはかなりの計算能力が必要になりそうだ。どのように対処しているのか。
正直、結構苦労している。情報量が膨大になるので高い演算能力が必要だ。このために、ハイスペックなSoC〔System on a Chip、米Qualcomm Technologies(クアルコム・テクノロジーズ)〕の「Snapdragon Digital Chassis」)を採用し、全体のパフォーマンスを高めている。
センサーは車外と車内に向けた両方が入っているが、車外に対しては先進運転支援システム(ADAS)の技術を充実させながら自己改善していかないといけない。そのためにはできるだけ外側の情報を取りたいが、全周囲のデータを取るには、ある程度の数のセンサーがないと厳しい。
御社はエンタメだけでなく、安全性の部分でも先端を目指しているのか。
ソニーグループ製のイメージセンサーを中心に、ADASの技術を追求していきたい。その部分の優位性は、もちろんある。ただし、自動運転はセンサーだけで成立するわけではないので、その先の処理をどう作りこんでいくかが大事だ。
クラウド接続なしは考えられない
車載OSは自社開発なのか、それとも他社製を採用するのか。
車載OSと言ったときに、どの部分を指すのかは人によってまちまちだ。実際、クルマは複数のOSを搭載している。インフォテインメント用のOSとは別に、ADAS用のOSが載っていたりする。複数のOSを指しているのか、それより上のレイヤーで抽象化された世界を指しているかで答えは違う。
抽象的なレイヤーに関しては、クルマの中ではなくクラウドとの関係の中で成立させていくものだと考えている。
なぜ、抽象化するのかはネットワークとの接続が前提になるからだ。私は「サービスフレームワーク」と呼んでいるが、クラウドにつなぐときのAPI(Application Programming Interface)やSDK(Software Developent Kit)を定義することが重要になる。それらを対外的に開示して、他社のサービスとの乗り入れを可能にするというコンセプトで開発を進めている。
その部分はスマートフォン(スマホ)と同じ考え方ということか。
モビリティーは、ハードウエア単体とクラウド上で動いているプラットフォーム、サービスとが一体化されたものだと捉えている。それを実現するにはクラウドなしは考えられず、クラウド上にすべてのデータが残る。
クルマとの接し方や運転の仕方も人によってまちまちなので、スマホでそれぞれの利用者が好みのアプリを使っているのと同様、きめ細かいユーザーとの接点を考えていくべきだと思う。
最後に、AFEELAの想定ターゲット層は誰になるのか。
言いづらい点はあるが、今回目指しているスペックを考えると低価格の領域に振るのは難しい。我々のビジョンに共感・共鳴して頂ける方が対象になる。年齢層はあまり関係なく、例えばモビリティーの技術の進化に対して興味がある方たちだ。
米Tesla(テスラ)にもそういう部分がある。特に新興系の自動車会社は、新しい考え方でアプローチしてくるので、動向をかなりウオッチしている。