新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大しイベントや会議などの中止が相次いでいる。日本でも緊急事態宣言が発令され、企業はテレワークを推進。人が直接集まることを極力避け始めた。こうした中、一躍注目されているのがVR活用だ。VR空間で人が集まり、交流を図る。サービス提供者は用途ごとに特徴を打ち出し、ユーザーの使い勝手を高めている。
「新型コロナの発生後、問い合わせが10倍に増えた」。仮想現実(VR;Virtual Reality)空間でイベントを開催できるサービスを手掛けているクラスター(東京)代表取締役CEOの加藤直人氏は、世間の関心の急騰に驚く。新型コロナの影響でイベントの中止が相次ぎ、代替手段を模索する企業が増えている。白羽の矢が立ったのが、サイバー空間で人が“会う"VR活用というわけだ。
インターネットを通じてオンラインのイベントを開催する例は増えているが、その多くはビデオ会議システムを使ったり、事前に撮影したりして映像を配信する形をとる。だが、単に映像を配信するだけでは魅力に欠ける。参加者同士が交流できず、イベント会場の「雰囲気」も伝わりにくい。盛り上がった会場での 「一体感」も味わえない。
VRでの空間共有に期待高まる
そこで関心が高まっているのが、VR空間のイベントスペースを活用した代替イベントである。参加者はアバター(VR空間上のキャラクター)となり、他の参加者とコミュニケーションを取りながらイベントに参加できる。会場の雰囲気や一体感などを共有できるのも魅力だ。ヘッドマウントディスプレー(HMD)を使えば没入感が高まるが、パソコン(PC)版やスマートフォン版の登場で、空間共有の魅力を損なわずに気軽に参加できるようにもなってきた。これまではユーザー数が伸び悩んでいたが、新型コロナの感染拡大を機に需要が広がる可能性がある。
事実、VR空間で開催されるイベントは急増している(図1)。KDDIは、2020年3月24日に開く予定だった、スタートアップ企業との事業共創における発表会「MUGENLABO DAY 2020」のリアル会場での開催を中止。代わりにクラスターが提供するVRイベントスペース「cluster」で開いた。
CyberZ(東京)らが運営する国内最大級のeスポーツ†イベント「RAGE(レイジ)」は、eスポーツ観戦などが可能なVR空間「V-RAGE」をcluster上に開設。無観客開催となった「RAGE Shadowverse 2020 Spring GRAND FINALS powered by SHARP」(2020年3月15日)を、VR空間内で観戦できるようにした。VR空間で1万人以上が参加したという。
研究者が集う学会大会のオンライン開催も増えている。多くは基調講演や口頭発表などを映像配信するだけだが、ここでもVR活用が広がりつつある。例えば、情報処理学会や日本音響学会は、clusterを使って公開セッションやセミナーを実施した。
海外でもVR空間で代替イベントを実施する動きがある。例えば、VRや3Dユーザーインターフェースの国際学会である「IEEE VR 2020」(2020年3月22~26日、米アトランタ)は、VR空間で講演などを聴講し、デモを発表できるようにした。
IEEE VR 2020では、Webブラウザーから利用可能なソーシャルVRプラットフォーム†「Mozilla Hubs」を使用。3D-CGで作られた講演会場にアバターの姿で参加でき、テキストチャットの他に、拍手などのリアクションを使って他の参加者とコミュニケーションを図れる(図2)。