米Appleは2021年5月27日、部材調達リスト「Apple Supplier List」の最新版(2020年分)を公開した。昨年はコロナ禍での混乱で公開されなかったため、2年2カ月ぶりとなる。同リストには、前年仕入れ額の97~98%を構成する約200社が記載されており、そこからは部材メーカーのすう勢がうかがえる。最新版では中国勢のさらなる躍進が見られた。ライターの大槻智洋氏に詳細を分析してもらった。
「米Appleが毎年発行する200社のサプライヤーリストに載ること。それは民生機器向け部材を手掛けるメーカーにとって、『メジャーリーグ』入りを意味する」。本誌2019年5月号の記事「中国シフト進む『Apple経済圏』」の冒頭で、筆者はこう記した。売上高で約30兆円に達するApple経済圏に含まれることは部材メーカーにとって大きな意味がある。それは今でも変わらない。しかし、当時にはなかったトレンドも見えてきた。
中国企業がリスト入りに注力し続けている一方で、地域別の社数比率で25%と今回もトップを維持した台湾企業の意識に変化が見られる(図1)。成長が鈍化しているApple経済圏からの離脱である。事業を高く売れるうちに売却し、それで得た資金を新分野に投資するという戦略である。
具体的には、筐体のCatcher(可成)、イヤホンのMerry Electronics(美律)、EMS/ODMのWistron(緯創)といった、それぞれの分野で著名な台湾企業が、iPhone関連事業を中国企業に既に売却している。例えば、Catcherは中国法人を中国Lens Tech(藍思)に売却し、利益を260億台湾ドル(1台湾ドル=4円換算で1040億円)計上した。「過去にはスマートフォンの筐体分野に注力していたが、将来は5Gや自動車部品、医療など多分野を開拓できると信じている」と同社董事長の洪水樹氏は20年8月のIR説明会で発言した。
一方で中国企業は国策を後押しに、大枚をはたいてでも民生機器向けの部材事業を手に入れたがっており、それがAppleのリスト入りにもつながっている。その国策とは過去の「世界の工場」からの脱却。つまり、台湾を含む外資系企業が中国に製造現場だけを置いてそこから世界に部材を供給する時代との決別だ。