ロームは、出力コンデンサーの静電容量を大幅に削減できるLDOレギュレーターICを開発した。従来は、1µFを超える出力コンデンサーを接続する必要があったが、これを100nF程度の容量に減らしても安定した出力電圧が得られる。現在、スイッチングレギュレーターICで主流の電流モード制御方式を適用することなどで実現した。将来的には、出力コンデンサーが一切いらない「コンデンサーレス」が視野に入ってきた。(本誌)
マイコンやSoC(System on a Chip)などのデジタルICを動作させるには電力の供給が必要不可欠だ。通常は、LDO(Low Dropout)レギュレーターICやスイッチングレギュレーターICといった電源ICを使って駆動する。ただし電源ICの入力電圧と出力電圧の差が小さく、供給電流が比較的少ない場合は、出力電圧に含まれるノイズが少ないLDOレギュレーターICを使うケースが多い。LDOレギュレーターICとスイッチングレギュレーターICを使い分ける目安となる供給電流は1~2Aだ。これよりも少なければLDOレギュレーターICの出番となる。
厳密に言えば、LDOレギュレーターICだけではデジタルICを駆動できない。なぜならば、LDOレギュレーターICの出力とデジタルIC(マイコン)の入力のそれぞれに、静電容量が比較的大きいコンデンサーを接続しなければならないからだ(図1)。実際のところ、マイコンを実装したプリント基板をながめてみると、数多くのコンデンサーが所狭しと実装されていることが分かるだろう。
こうしたコンデンサーは膨大な数にのぼる。例えば、1台の電気自動車には、今後1万個を超えるコンデンサーが搭載される見込みである。1つ1つのコンデンサーの外形寸法は小さく、コストは低い。しかしながら、それが1万個も集まれば、実装面積もコストもかなり大きくなってしまう。電気自動車をはじめ、民生機器やモバイル機器、ウエアラブル/IoT機器などでは、小型化や軽量化、低コスト化に対する要求が強い。このため、コンデンサーの搭載個数を減らすことが急務になっている。
電圧の変動幅が大きい
LDOレギュレーターICの出力とマイコンの入力にコンデンサーを接続する目的は、マイコンに供給する電圧を安定化させることにある。
一般にマイコンなどのデジタルICは、供給電圧(電源電圧)の変動幅に対して許容値を定めている。多くの場合、その許容値は電源電圧の±5%以内である。つまり、電源電圧が+5Vであれば±250mV以内、+3.0Vであれば±150mV以内に収めなければならない。もし、この変動幅を超えてしまうと、マイコンが誤動作したり、リセットが掛かったりしたりする危険性が高まる。
実際のところ、LDOレギュレーターICだけで許容値に収めるのは難しい。このためコンデンサーが必要になる。コンデンサーは、マイコンの動作状態が変化して供給電流が急増した際の「電力貯蔵庫」として機能すると同時に、供給電圧に含まれる高周波ノイズを除去するフィルターとして働く。従って、LDOレギュレーターICの出力とマイコンの入力のそれぞれにコンデンサーを接続しておけば、供給電圧の安定化が図れる。
こうした役割を担うコンデンサーに求められる静電容量は、採用するLDOレギュレーターICやマイコンの特性によって違うが、一般的にはLDOレギュレーターICの出力には1µ~10µFのコンデンサーを、マイコンの入力には100nF程度のコンデンサーを接続する。こうしたコンデンサーの静電容量が不十分だと、マイコンに供給する電源電圧が大きく変動してしまう憂き目に遭う。
どの程度変動してしまうのか。その変動幅を実験で確かめてみた。図2(a)は、+5V出力の市販のLDOレギュレーターICを使った場合である。出力コンデンサーを取り除き、マイコンの入力に100nFのコンデンサーを接続した。この条件下では、マイコンへの供給電圧の変動幅は非常に大きく、プラス側に780mV、マイナス側に370mVも変動してしまった。プラス側の変動率は15.6%と大きい。これでは、許容値である+5.0V±5%を順守できない。
図2(b)は、+3V出力のLDOレギュレーターICの出力コンデンサーとマイコンの入力コンデンサーの両方を取り去った場合である。この実験に用いたLDOレギュレーターICは、LDOレギュレーターICの出力とマイコンの入力の両方のコンデンサーが不要の「キャップレス(コンデンサーレス)」をうたう市販品である。しかし、実際にはプラス側に310mV、マイナス側に740mVも変動した。マイナス側への変動率は実に24.6%に達する。もちろん、これでは+3.0V±5%の許容値を満足できない。