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電子機器に搭載するDC-DCコンバーターの設計には試行錯誤が不可欠であり、長い期間を要する。そんな常識を覆す降圧型DC-DCコンバーターICをロームが開発した。DC-DCコンバーターの負荷応答特性や出力コンデンサー容量などを最適化できる。同社独自の回路技術「QuiCur」の開発で実現した。QuiCur技術は、帰還回路に含まれる信号処理機能を補正系と制御系の役割に分けて最適化したもの。それぞれの役割は、2つの誤差アンプに割り当てた。(本誌)

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 マイコンやSoC(System on a Chip)、ASSP(Application Specific Standard Product)といったデジタルICに供給される電源電圧は、常に一定とは限らない。デジタルICの動作モードが変化すれば、それに伴って負荷電流(消費電流)も変化する。その結果、電源電圧は変動してしまう。

 そこでデジタルICでは、この変動に対して許容範囲を規定している。例えば、+3.3V±10%、+1.8V±5%といった具合である。電源電圧がこの許容範囲を超えるとデジタルICにリセットが掛かり、動作が停止する。このためデジタルICに電力供給するDC-DCコンバーター回路は、出力電圧(電源電圧)をこの許容範囲に収めることが必須になっている。

 しかし、電源電圧を許容範囲に収めることはそう簡単ではない。それを実現するために必要なDC-DCコンバーターの回路設計がとても複雑だからだ。具体的には、(1)負荷応答特性、(2)位相余裕、(3)出力コンデンサーの静電容量という3つのパラメーターに関するそれぞれの設計目標をクリアしなければならない。

 (1)負荷応答特性の設計目標は、出力電圧の変動幅を規定範囲に収めること。(2)位相余裕は45度以上に設定すること。位相余裕が45度を下回るとDC-DCコンバーター回路の動作が不安定になる危険性が大幅に高まる。最悪の場合、出力電圧が発振してしまう。(3)出力コンデンサーの静電容量は、コストと基板上の実装面積を削減するために、最小限に抑えること。もちろん、これらの設計目標を同時に達成する必要がある。