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装着型サイボーグ「HAL」を開発するCYBERDYNE(サイバーダイン)が「スポーツテック」に参入した。ユーザーには米メジャーリーグで活躍する前田健太選手など世界のトップアスリートも含まれる注1)。同選手はHAL を利用した自主トレーニングをスポーツ施設「IWA ACADEMY」で公開。同社はどのようなビジョンを掲げてスポーツ領域への参入を決めたのか。CEO を務める山海嘉之氏に話を聞いた。(聞き手は野々村洸、高橋厚妃=日経クロステック)

注1)前田選手の所属はミネソタ・ツインズ。取材当時はロサンゼルス・ドジャースだった
(写真:日経クロステック)
(写真:日経クロステック)

サイバーダインはこれまで介護や医療の現場でHAL(Hybrid Assistive Limb)の利用を進めてきました。今回、なぜHALをスポーツ領域で生かそうと考えたのですか。

山海氏:実は身体の一部が不自由な方も、トップアスリートの方にもある類似点があります。それは「可能な限り身体機能を高めたい」という強い思いです。例えば元サッカー日本代表の中田英寿氏は自分の脳神経系と身体の両機能を高め、思うままに身体能力を発揮しようと考えているように見えました。もちろん身体が不自由な方とトップアスリートだと、おのおのが目指す「身体の使い方」は異なるでしょう。しかし、脳神経系と身体の機能向上を通して、私はHALがアスリートの支援にも役立つ可能性があると思ったのです。

 私たちはスポーツ領域でIWA JAPAN(東京・千代田)と協力することになりました。前田健太選手(愛称はマエケン)が自主トレーニングを公開した施設の運営会社です。その理由の1つに、彼らがトップアスリートの教育に力を注いでいたことが挙げられます。彼らと協力してスポーツでのHAL装着者のデータを集めていけば、アスリートだけでなく、身体が不自由な方々にも有効なデータをフィードバックできるでしょう。

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IWA ACADEMY でトレーニングする前田健太選手。HAL の腰タイプ自立支援用を装着し、身体を動かした。同製品の利用で運動能力の向上を目指す。その一環でサイバーダインは同施設を運営するIWA JAPAN と協力している。
IWA ACADEMY でトレーニングする前田健太選手。HAL の腰タイプ自立支援用を装着し、身体を動かした。同製品の利用で運動能力の向上を目指す。その一環でサイバーダインは同施設を運営するIWA JAPAN と協力している。
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 少し話はそれますが、筑波大学の前身の東京高等師範学校に嘉納治五郎という柔道家・教育者がいました。東京高等師範学校で校長を務め、日本の体育教育に力を注いだ人物です。NHK大河ドラマの「いだてん東京オリムピック噺(ばなし)」にも登場しました。私も筑波大学の教授の1人として、彼の体育教育やスポーツへの思いに共感しています。