日本市場に合う品質を中国・深圳のサプライチェーンで実現すべく奮闘するジェネシス藤岡社長のキャリアは、間もなく20年を迎える。同社は2014年に自社工場によるEMS/ODM(設計製造受託)を開始。携帯翻訳機「ポケトークW」を受注して収益を一気に増やした(末尾に関連記事)。同氏に経緯や展望を聞いた。(聞き手:大槻 智洋=本誌特約記者、TMR台北科技)
当社(ジェネシス)がソースネクストの携帯翻訳機「POCKETALK W(ポケトークW)」を受注できたのは、米国サンフランシスコ市南のパロアルト市在住の松田さん(ソースネクスト 創業経営者の松田憲幸氏)に会いに行ったからです。松田さんはこう言っていました。「日本人は『近いうちに伺います』としょっちゅう言うのに実際はほとんど来ない」と。その点、深圳マインドの私はシリコンバレーに行ったことがなくてもすぐ行っちゃう。
松田さんを紹介してくれたのはMVNO(仮想移動通信事業者)のソラコム 代表取締役 社長の玉川憲さんです。玉川さんとは2017年11月ころ、深圳視察ツアーで知り合いました。そこでソースネクストの話が出て、2018年2月半ばの旧正月休みに伊藤亜聖さん(東京大学 社会科学研究所 准教授)と松田さん宅を訪れました。
受託に向けたプレゼンなんてしませんでした。ワインをいただきながら、深圳や電子機器の造り方などについて議論しました。当時、ソースネクストはポケトーク初号機を、オランダTravisの既製品を「貼牌」(ブランドだけを変えること)に近い形で売り、品質や納期が安定せずに苦労していました。私たちに製造させれば解決するのではないかと松田さんは感じたそうです。私が深圳に住んで戦い続けてきたことも評価してもらえた。松田さん自身がパロアルトに住んでから本当に分かったことが多かったからだと思います。
松田さんは私たちが訪問した後すぐ、2号機のポケトークWの開発プロジェクトを立ち上げました。私はハードウエア関係を中心に実質的なPM(Product Manager)を務めました。当時ソースネクスト社員にハードウエアの専門家があまりいなかったからです。私は「仕様値Aと仕様値Bはトレードオフです。Bを2割下げてAを死守しましょう」といった具合に開発を取りまとめました。半年近く、2号機開発に最優先で時間を割き続けました。
1つの案件に入れ込んで出荷台数が期待外れに終わったら営業赤字を出しかねない。私にそんな恐れはありませんでした。「クリーンナップ(野球で走者一掃させる打順)で久しぶりに打たせてもらえる。プロとして何が何でも結果を出すぞ」としか思わなかったのです。
大抵のIoT(Internet of Things)デバイスは特徴をソフトウエアで実現します。台湾MediaTek(聯發科)の低価格スマートフォン向けASSP(特定用途向けIC)1つでハードウエアをほぼ構成しているようなイメージです。とはいえ、サブのハードウエアがバラついていたり高価すぎたりすると、ソフトウエアの威力を存分に発揮できない。だからソースネクストは腹をくくっています。既にジェネシスだけでなく中国UMEOX(優美創新科技)に出資しました。UMEOXは、ポケトークの基板設計とPCBA(部品実装済み基板)の供給を担っています。