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遠隔から“憑依(ひょうい)”して自分の分身としてコミュニケーションや何らかの作業をするアバターロボット。開発企業の中でも異色の存在がオリィ研究所だ。他の企業のようにビジネス向けではなく、社会課題である「孤独の解消」を目標に掲げる。“黒い白衣”をまとう、CEOの吉藤健太朗氏に聞いた。(聞き手:内田 泰、松元則雄=日本経済新聞社)

吉藤 健太朗(よしふじ・けんたろう)
吉藤 健太朗(よしふじ・けんたろう)
高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。高専でAIを学んだ後、早稲田大学創造理工学部へ進学。自身の不登校の体験をもとに、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。その後、オリィ研究所を設立。趣味は折り紙。(写真:日経エレクトロニクス)
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 新型コロナウイルスの感染拡大でビデオ会議サービス「Zoom」などが一気に普及しました。しかし、私が開発した分身(アバター)ロボット「OriHime」は、同様に遠隔でのコミュニケーションができるとはいえ、異質なものです。

 人はわざわざコストをかけて外出します。人生で自分が使える時間の1/5を移動のために費やしているという試算もあります。なぜ、そこまでする必要があるのか。人と出会ったり、人の営みに参加したりするためです。「運命的な出会い」という言葉がよく使われますが、そもそも外に行かなければその運命にすらたどり着けません。

 私は趣味でシェアハウスの運営もしているのですが、入居者の人たちはそれぞれ自室はあるけれど、いつも皆が集まるリビングにいてだらだらしています。そこに「いる」ことに価値があるからです。

 しかし、世の中には自分が望んでいなくても病気や障がいを抱えていたり、精神的な問題で外出ができなかったりする人たちがたくさんいます。超高齢化社会を迎えた日本では、健康寿命は約75歳で、それ以降の人生を寝たきりで過ごす方も多くいます。その結果、社会参加ができず、孤独に陥ってしまう。我々もいつかは寝たきりになるかもしれませんし、そうした中で豊かな暮らしをいかに維持するかという生存戦略がこの国には不足しています。

 そこで、外出したくてもできない人たちを、分身ロボットを使って外へ連れ出してあげるのです。例えば、病気などで自分の体を別の場所に運ぶことに抵抗があっても、OriHimeを使ってお墓参りに行き、いったんその場所を見ると、次は実際に自分で行きたくなる。そうした事例を、これまでたくさん見てきました。

 私が分身ロボットの開発を通じて目指しているのは、人々の「孤独を解消する」ことです。そのために電話やビデオ会議にはない、“用のないコミュニケーション”や偶発的な出会いを生み出します。ここに注力しているのは、そこに切実なニーズがあることと、私自身が3年半、不登校という辛く孤独な経験をしているためです。