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新発想の全樹脂Liイオン2次電池を生み出し、実用化したのが、APB 代表取締役 CEOの堀江英明氏だ。同氏が狙うのは、定置用という電気自動車用よりも大きな新たな市場である。電池の特長と今後の戦略を聞いた。(聞き手=中道 理、東 将大)

堀江 英明(ほりえ・ひであき)
堀江 英明(ほりえ・ひであき)
1957年生まれ。1985年、東京大学大学院理学系修士。同年、日産自動車入社後、EV/HEV用高性能2次電池の研究開発に従事。2007年10月から10年3月まで東京大学人工物工学研究センター准教授。その後、日産に再入社し、全樹脂電池の開発に従事。11年1月から16年1月まで東大生産技術研究所特任教授として大型定置用電池システムを研究。15年4月から慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授。18年3月に日産を退社し、10月にAPBを設立、代表取締役に就任。(写真:加藤 康)
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 1992年に当時、所属していた日産自動車でソニーと電気自動車(EV)用のLiイオン2次電池(LIB)の研究開発を始めました。1990年代はEVに各社が力を入れており、米General Motors (GM)、米Ford Motor、米Chrysler(当時)、トヨタ自動車、ホンダなども取り組んでいましたが、ニッケル水素電池を使っており、LIBを使ったのは日産だけでした。LIBを選んだのは、最後はLIBになると考えていたからです。ハイブリッド車が主流になるという話もありましたが、私はEVが最終的に残ると考えて開発をしてきました。その結果出来上がったのがリーフの電池です。

 EVの世界では、やるべきことが終わったと思っていたころ、東京大学からお誘いを受けました。当時考えたのはこういうことです。自動車がEVになるということは、産業革命を推進してきた社会のエネルギーが内燃機関から電気に代わるということです。では本丸はどこかというと、それは基幹電力だろうと。自動車でハイブリッドがあるのだったら、基幹電力にハイブリッドがあってもいいじゃないか。自動車をハイブリッドにすることでエネルギー効率が2倍くらいになりますが、自動車よりも効率の悪い基幹電力でやれば容易に2倍、いや3倍の効率を達成できるだろうと。年間600兆~700兆円を費やすエネルギー産業が2倍、3倍の効率で動かせるならこれは非常に大きなマジックだろうというわけです。根拠はほとんど薄弱ですが、次に定置用電池に取り組むことを決意しました。

 世界の電力コストを調べると、先進国でも発展途上国でも、発電所に大体10パーセント、送配電に90パーセントのお金が使われています。つまり、送配電を維持することが大変なわけです。この点をみると、電力会社は発電会社よりもむしろ送配電会社です。この送配電網は、発電所からくるためのピークパワーのために設計されていて、実際にはその容量の20~30%ぐらいしか使われていない。

 太陽電池からの発電や風力発電が系統に入ってくると、系統が不安定になります。これを解消するためには、あちこちに分散的に電池を置く必要があります。だったら、例えば都市部に巨大な電池を置いておいて、火力発電を最も良い効率で回し、自然エネルギーの変動分を電池で吸収すれば、送配電網も含めて全体の効率が良くなり、経済合理性もあるはずです。

図 全樹脂電池の構造
図 全樹脂電池の構造
従来型Liイオン2次電池は、電流が電極と並行に流れるが、全樹脂電池では、電流が電極と垂直な方向に流れる構造を採る。この結果、正極・負極に金属に比べて電気抵抗が高い樹脂集電体を採用でき、安全性の向上に貢献している。また、1枚1枚の電池セルをそのまま重ねることで直列に接続できるため、従来型Liイオン2次電池に比べて部品点数の減少や製造プロセスの簡略化ができる。(図:豊田通商のプレスリリースを基に日経クロステックが作成)
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 今のEV用電池を系統に埋め込むという議論がありますが、経済合理性は全くありません。このEV用の電池開発の最前線にいた私からすると、EV用の電池は経済的にもシステム的にも将来の定置用電池とは異なる存在(人工物)です。定置用に向くと私が考えているのは、地下などに大規模に置いておいて、8時間程度の長周期で電気を出し入れする電池です。あまり、急激に充放電はしないので、温度も大きく上がりません。電池は、ものすごく大容量が必要なので、安全かつ、安く作る必要があります。こうして考えて生まれたのが、全樹脂電池です。