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まずはデータ作りからスタート

 MIには課題も多い。例えば、現時点のMIとそこで用いるAI技術の多くが、所望の特性値を得られる可能性が高い組成を提案はするものの、実際に合成できるかどうかは分からない点。一般的に、材料の合成や精製には時間がかかり、それが開発期間短縮のボトルネックになるケースがある。

 最大の課題は、データが圧倒的に足りないことだ。NEDOの超超プログラムでは当初、参加企業が十分なデータを持っていることを想定していたが、「適切なデータが当初の想定より大幅に少なく、そのままではMIの有効性が限られた。そのため、まずはデータを量産するための計算コード『マルチスケールシミュレーター』の開発から始めることになった」(NEDO 材料・ナノテクノロジー部 主任研究員でプロジェクトマネージャーの國谷昌浩氏)という。

 NEDOに限らず、さまざまな手法を使ってデータを収集する取り組みが進められている(図9)。企業のMIでも、データを量産する実験装置や計算ツールが強みになっている例が多い。TDKは、これまで開発してきた磁性体材料の電子顕微鏡写真を「全層畳み込みネットワーク(FCN)」というAIに見せることで材料の細部の特徴を分類し、写真をMIで利用可能なデータに変換中だという。

図9 データの“量産”が第一歩に
図9 データの“量産”が第一歩に
MIを始める上では、必要なデータがない場合も多い。このため、データを量産するさまざまな取り組みが進められている。MI自体よりも、データの量産技術を他との差異化ポイントだとしている企業や研究機関が多い。
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FCN(Fully Convolutional Networks)=画像中の物体認識に優れたニューラルネットワークである「CNN(畳み込みニューラルネットワーク)」の一種。全結合層がなく全層が畳み込み層であるのが特徴。画像を画素ごとに分類することなどに用いられている。

 これには思わぬ副産物もあった。「これまで材料の写真の分析は研究者の経験と勘に頼ってきた。この技術を使えば写真を客観的なデータに変換でき、将来のMIのためだけでなく、現在の業務にも役立っている」(TDK 技術・知財本部 技術企画グループ 基盤技術支援部 アルゴリズム室 室長の橋本勉氏)という。

データを制するものが世界を制す

 データ収集競争は世界的、かつリアルタイムに進行している(図10)。日本ではNIMSが「MatNavi」と呼ぶデータベースを構築しているが、世界ではさらに規模の大きなデータベースが多数ある。これらのデータを、セキュリティーを確保しながらどこまで共有し、活用していくかも大きな課題といえる。

図10 材料データベース整備やデータ共有の動きが加速
図10 材料データベース整備やデータ共有の動きが加速
世界各国で急速に整備が進んでいる材料データベースの例を示した。データを生成する仕組みを企業間で共同開発したり、研究機関間でデータを共有したりする動きも始まっている。
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