水素社会2.0とも呼ぶべき、新しい水素社会の建設が始まった。ここでは、燃料電池に加えて、蓄電池や再生可能エネルギーが重要な役割を果たす。化石燃料に頼らない、エネルギーの利用コストが極めて低い社会の実現に向かって世界が進み始めた。
「水素社会」という言葉は数十年も前からある。水素をエネルギーの主軸として利用する社会のことだ(図1)。しかし、ほんの数年前までの水素社会と、現在語られている水素社会は別物といってよいほど、内容が異なる。
違いは大きく2つ。1つは、新しい水素社会は同時に、蓄電池が街に遍在する蓄電池社会でもある点。後述するように、Liイオン2次電池(LIB)などの蓄電池と併せて考えることで初めて、経済合理性が成り立つ道筋が見えてくるからだ。トヨタ自動車も、蓄電池と燃料電池(FC)が共存する社会をイメージする(図2)。
もう1つは水素の量産プロセスが以前とは違う点である。以前は、天然ガス、つまりメタン(CH4)に高温の水蒸気を当てて改質する水蒸気改質が主な水素の製造法だった注1)。
注1)例えば、CH4+2H2O→CO2+4H2という反応である。
これでは水素の調達コストは安くならない。天然ガスのコストに改質コスト、そして取り扱いがより難しくなることによる追加コストが上乗せされたものになるからだ。化石燃料依存の状況も変わらない。メリットがあるとすれば、二酸化炭素(CO2)の排出場所を改質工場に限定でき、将来のCCS(Carbon dioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収貯留)技術でCO2を大きく削減できる可能性があることぐらいだった注2)。
注2)一方で、さまざまな社会インフラの変更には大きなコストがかかる。それらの痛みに加えてエネルギーの調達コストが上がる半面、得られるメリットが不明確なままでは、実現を目指す動機もぼやけてしまう。長期間、政府がいくら旗を振っても企業の腰が重い「笛吹けど踊らず」の状態が続いたのも無理はない。