燃料電池や水電解、水素貯蔵技術の開発の歴史は長い。ただ、普及のためには開発はまだ道半ばだ。海外との開発競争も激しくなっている。それでも国内でいくつか技術や材料にブレークスルーが相次いでいる。最近の触媒の低白金(Pt)化やPtレス化、水素吸蔵合金における新材料などを紹介する。
水素社会実現に向けた、燃料電池(FC)技術、水の電気分解(水電解)技術、水素貯蔵技術の開発は、依然として日本のメーカーや研究機関がリードしているといえる。ただし、海外勢、特に米国や中国勢が猛追しており、そのリードを維持していくためにも、現状のまま足踏みしている余裕はない注1)。
注1)耐久性は最近まで、「5000時間」が1つの目標値だった。国内メーカーはおおよそクリアしているが、海外では米エネルギー省(Department of Energy)が2020年の達成を目標にしている。ところが、2018年3月には中国Sunrise Power(新源動力)がFCV向けFCスタックでその耐久性をクリアしたと発表した。
FCの課題は、出力密度などの性能と耐久性を共に高めながら、同時にコストを下げていくことだ(図1)。
出力密度は、2000年前後にはチャンピオンデータで約1kW/Lだったが、2014年末に発売されたトヨタ自動車製燃料電池車(FCV)の「MIRAI」では3.1kW/Lと3倍を実現。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の開発ロードマップでは、2020年に4.0kW/L、2025年に5.0kW/L、2030年には6.0kW/L、そして2050年には9.0kW/Lに高める目標を掲げている注2)。NEDOは、燃費の目安になる、水素の単位質量に対する航続距離も現状(MIRAI)の水素5kgで航続距離650kmを、2030年には同800km、2040年には同1000kmに伸ばしたい考えだ。
注2)MIRAIの最大出力は113kW(154馬力)で数字上は既に十分高い。ただし、FCは出力を0から急激に高めるのが苦手で、余裕を持たせるためにも、「300kW(約408馬力)ぐらいは欲しい」(あるFC研究者)という声がある。ちなみに米Teslaの電気自動車(EV)「Model 3」はモーター2台で450馬力を実現している。