無線を扱う前に技術者が知っておくべき基本を3回の連載で解説する。前回はアンテナと伝送路について説明した。特にアンテナ設計や雑音対策のコツが分かるように、グラウンドについて詳説した。最終回の今回はインピーダンスについて、その基礎から、特性インピーダンスやインピーダンスマッチングまで解説する。 (本誌)
今回は、インピーダンスについて解説する。まず、電子回路の基本要素に立ち返って、基礎から説明する。
インピーダンスとは
直流回路では電流を流れにくくする部品としては抵抗だけを考えていればよかったが、これを交流回路まで拡張して考える場合、抵抗の他にコイル、コンデンサーも考える必要がある。交流回路において、抵抗、コイル、コンデンサーにより電流の流れにくさを表す量を「インピーダンス」という。ここで3つの部品の特徴を整理しておこう。
「抵抗」は直流でも交流でも、抵抗に電流が流れれば、電圧降下が起こる。交流では信号の周波数が変わっても、降下する電圧の値は同じである。「コイル」は電線を巻いたものなので、直流では電流が流れても電圧降下はほとんど起こらない注1)。しかし、交流の場合は、印加する信号の周波数が高くなればなるほど、電圧降下の値は大きくなる。「コンデンサー」は、直流では電流は流れない。交流では、印加する信号の周波数が高くなればなるほど、電圧降下の値は小さくなる。
注1)実際にはコイルの電線の抵抗による小さな電圧降下は起こる。
これらの特徴を利用し、それぞれの部品を使い分ける。抵抗は直流でも交流でも同様に電圧降下をさせたい箇所に使い、コイルは高周波(交流成分)を大きく減衰させて直流を通したい箇所に使う。コンデンサーは直流を通さず高周波(交流成分)だけを通したい箇所に使う。これらの3つの部品を直列につなぎ、電流の流れにくさを表す量をインピーダンスとして表現する(図1)。
抵抗にはオーム[Ω]、コイル(インダクタンス)にはヘンリー[H]、コンデンサー(キャパシタンス)にはファラッド[F]という電気的な単位がある。しかし、インピーダンスを考える上で、これらの3つの部品を直列に接続し、計算するためには、単位を合わせなければならない。そこで、この単位を抵抗で用いるオーム[Ω]に統一して足し合わせる注2)。
注2)直列接続の合成抵抗の計算に相当する式となる。
ここで、コイルのインダクタンス[H]の値$(L)$角周波数の$ω$を乗ずると、単位は[Ω]に変換される。コンデンサーは、そのキャパシタンス[F]の値($C$)に角周波数の$ω$を乗じ、その逆数を取ることで、単位は[Ω]となる。角周波数は、 \(ω=2πf\)で与えられる(単位は[rad/秒])。$f$は印加する交流信号の周波数(単位は[Hz])である。そして、抵抗の電圧と電流の比$R$(抵抗値)に相当するコイルとコンデンサーにおける電圧と電流の比を$X$と表し、「リアクタンス」と呼ぶ。
交流回路の中では、周波数が変化してもΩの値が変わらない抵抗成分($R$)の世界と、周波数が変化するとΩの値が変わるリアクタンス成分($X$)の世界が同居している。インピーダンスではこれらを1つの式でまとめて表したい。そこで、1つの式の中に2つの世界を表現できる複素表記(z = x + $i$y)で表している。この表記のx(実数部)には抵抗成分($R$)、y(虚数部)にはリアクタンス成分($X$)のコイルとコンデンサーをまとめてかっこでくくり、リアクタンス成分の前には複素単位$j$を付けて注3)、図1に示す式のようにインピーダンス($Z$)を表す。
注3)数学では虚数単位は$i$を用いるが、電子工学で$i$は電流を表すので、虚数単位には$j$を用いる。
図1の式のかっこ内のリアクタンス成分の値が0(ゼロ)になるときを、回路が共振しているという。リアクタンス成分が0となるのは、$ω$$L$=1/$ω$$C$のときで、ここから \(ω^2= \frac{1}{LC} \) という式を得る。ここで、\(ω=2πf \)より \(f= \frac{1}{2π√LC} \) という式が導き出せる。この式が電子回路の設計などで頻繁に使われる共振の式である。
共振しているときは、入力から出力へエネルギーを伝送する際に、最も伝送効率が高い状態になる。使いたい周波数$f$において、 \(f= \frac{1}{2π√LC} \) の条件を満たすようにすれば、最も効率よくエネルギーを伝送できる。アンテナ設計の場合、空間にエネルギーを効率よく放射したい。従って、リアクタンス成分が0になるように設計する。つまり共振させることを最初に考える。最も基本的なアンテナはダイポールアンテナで、具体的には、放射する電波の1波長の1/2の長さに電線を切断し、その中央に高周波信号を供給する。
アンテナのインピーダンス
次に、アンテナの長さ(電流分布)とインピーダンス$Z$の関係を図2に示す。アンテナの長さが電波の1波長の1/2のときに共振状態となる。そのときのアンテナ上の電流分布は同図のように中央で最大となる。アンテナはその周波数で共振しているので、インピーダンスの中のリアクタンス成分$jX$が0となり、アンテナの等価回路は抵抗成分$R$だけになる。この共振状態のときに、最も効率よく電波を放射する。
アンテナの長さが1/2波長よりも長くなると、どうなるか。アンテナは中央部で電流分布は最大となるが、アンテナの端部の1/2波長より先の部分では、電流の極性が反転する注4)。その部分で電流の流れる向きに対して右ネジ方向に回転して放射された磁界は、端部の1/2波長の内側の部分で発生される磁界と逆方向に回転して発生するため、ここでは双方の磁界の発生を相殺してしまう。電波の放射は磁界の発生に依存するので、アンテナから電波が有効に放射される領域は、1/2波長よりも短くなってしまう。結果として、1/2波長よりも長いアンテナの電気長は、1/2波長より短くなり、電波の放射は弱くなる。
注4)電流の流れる方向が逆向きになる。
一方、アンテナが1/2波長よりも短い場合はどうか。これは単純に、電波の放射に寄与する電気長が1/2波長よりも短いため、1/2波長の共振しているアンテナよりも電波の放射は弱くなる。