203X年4月、放送局のT社が「生成AI(人工知能)」の1つ、「GAN(敵対的生成ネットワーク)」を利用した画期的な配信サービスを開始すると発表した。配信されるのは脚本のテキストだけ。それをGAN対応の映像生成デッキまたはテレビで受信すると、脚本の内容に沿った映像や声がその場で生成される「脚本からドラマ」サービスである。「脚本からアニメーション」は5年も前に米国でM社が実現したが、実写と区別が付かない映像でのサービスは世界で初めだ。
T社が用意するのは3つのドラマコース。ドラマAは有名脚本家が書き下ろしたシナリオを使い、主役を視聴者本人が務める。ただし、映像と声を利用するだけで、視聴者に演技力は不要。相手役は実在しない仮想俳優。つまりギャラが要らないので制作コストは格安だ。仮想俳優はドラマを見返すごとに新しい俳優に切り替わるため、何度見ても飽きないだろう。それでも飽きた場合は、T社が用意する映像と声の学習データを更新すると、映像の季節やドラマの舞台背景などを入れ替えることができ、新鮮な気持ちで長く楽しめるかもしれない。
これとは別に、脚本さえも視聴者本人が書き、相手役に好きな俳優(の映像と声)を選べるコースB、映像をVR(Virtual Reality)で見るコースCもある。他の誰にも見せられない「あなたの見たい夢の世界」を存分に堪能できる。