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いつもの街がARの舞台に

 音を用いたARは、立体音響技術を応用した取り組みも加速する。NECが開発した「空間音響MR」は、屋外の空間に音源を配置することで、建造物などから特定の音声を再生できるようにする。商店街や観光地をエンタメ空間に変えてしまう技術だ(図4注4)

図4 街を丸ごとAR空間とする技術が確立しつつある
図4 街を丸ごとAR空間とする技術が確立しつつある
NECが開発した「空間音響MR」は、街の建造物や観光スポットの石像など屋外のリアル空間に、座標をパラメーターとして音源を配置して、利用者の場所や動作に応じて再生させることで、まるでそのオブジェから音声が聞こえてくるような臨場感のある体験を可能にする(a)。KDDIらが開発を進めるVPS技術は、衛星写真から街の3D地図を生成し、デバイスのカメラ画像と照らし合わせて利用者の位置を特定することで、複数人がリアル空間に紐付いたAR体験を共有できる「ARクラウド」の実現を後押しする(b)。(図:(a)はNEC)
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注4)音源は、緯度、経度、再生エリアの半径などを設定して空間に配置する。装着した専用イヤホンの9軸センサーや、スマホのGPS情報を基に利用者の位置や向いている方向などを特定して、配置した音源から音声を再生していく。「システム上は、世界中のどこでも使用できる」(NEC デジタルサービスソリューション事業部マネージャーの柴田郷氏)。2019年度内にコンソーシアムを立ち上げてプラットフォームを提供開始する予定である。

 例えば、街中の石像などが観光案内を読み上げたり、動物園の檻の前で動物が日本語で自己紹介したり、特に観光地での体験に付加価値を与えられる。

 同様に街全体を舞台とするARコンテンツでは、米Nianticなどが開発を進める「ARクラウド」と呼ばれる技術の発展が注目される。利用者の位置を特定するだけではなく、AR表示するオブジェクトや音源の座標とリアル空間の建造物の座標を一致させ、かつネットワークを介して複数人で共有できるようにする。音のARの場合は座標データだけでよいが、映像のあるARでは、建造物の形状もデジタル化する必要がある注5)

注5)建造物のデジタル化を支える技術の1つが、KDDIなどが開発する「VPS(Visual Positioning Service)」技術だ。衛星写真から3D地図を生成することで、街全体をデジタル化し、看板や広告など様々な情報をリアルの街に重ねてAR表示可能になる。

「10年後の未来は分からない」

 デバイス進化やコンテンツ拡充が期待される一方で、現場の担当者や技術者からは「10年後の未来がどうなるか分からない」との声も聞こえる。サービスにおいてデバイスに依存する部分が大きいことが要因だ。

 製品ごとに仕様や開発環境が異なる場合が多く、一貫したコンテンツ開発やプラットフォームの提供が難しくなってしまう。デバイスが進化するスピードが速いため、将来どのような仕様の製品が使えるのか、実際に発売されてみないと分からないのが現状だ注6)

注6)例えばARでは「まずデバイスが確立しないと、プラットフォームなどのその先の未来が語れない」(ソフトバンク サービス企画本部サービス企画統括 サービス企画部先端技術サービス推進課 課長の坂口卓也氏)という。

 従来の予想より歩みはゆっくりとしているが、VR/ARは目新しい技術から実用的な技術へと順調に段階を進めてきた。もう一歩を踏み出すために、ハードウエアとソフトウエア、両輪での進化がより一層求められる。