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高性能全固体電池は2025~2030年か

 LIBをベースにした全固体電池の製品化は、MLCC(積層セラミックコンデンサー)の製造技術を持つメーカーを中心に、2020年に始まる見通しである(図5)。当初はエネルギー密度が低い試作例が多かったが、村田製作所は既存のLIBに並ぶ体積エネルギー密度の全固体電池の製品化にめどを付けたとする。身近なボタン電池が全固体電池になるのも時間の問題といえる。

図5 2020年にボタン電池の“全固体化”が始まる?
図5 2020年にボタン電池の“全固体化”が始まる?
幾つかのメーカーの小型全固体電池の開発例と量産開始予定時期を示した。村田製作所は既存のLIB並みのエネルギー密度を備えた全固体Liイオン2次電池を開発し、2020年度中にも量産する計画(a、b)。太陽誘電はエネルギー密度でこそ村田製作所に及ばないものの、電流容量では100mAh程度と既存のボタン電池に匹敵する製品を2021年度に量産する。(a)と(c)は酸化物系固体電解質を使っていると推測できるが、(d)のマクセルと(e)の日立造船は硫化物系の固体電解質を用いている。(写真:(c)と(d)は各社、(a)と(e)は本誌。図:村田製作所の資料に本誌が加筆して作成)
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 こうした小型全固体電池の当面のメリットは、液漏れがなく比較的安全性が高いことだ。一方、エネルギー密度で現行LIBを大きく上回る全固体Li-S2次電池などの製品化が軌道に乗るのは2025年以降。それらがEVなどに使われるのは2030年以降とみられる。急速に台頭してきた上記のNi-Zn2次電池、AAB、PIBや全固体Naイオン-S電池といった非Liイオン2次電池技術との競争を勝ち抜けるか。ここ数年が本格的な実用化に向けた開発の正念場になりそうだ。

参考文献
1)Shaibani,M. et al.,"Expansion-tolerant architectures for stable cycling of ultrahigh-loading sulfur cathodes in lithium-sulfur batteries,"Science Advances,Vol.6, no.1, DOI:10.1126/sciadv.aay2757, 03 Jan. 2020.
2)野澤、「金属負極のデンドライト解消か」、『日経エレクトロニクス』、2020年1月号、pp.14─15.
3)野澤、「アルミ2次電池で600サイクル」、同上、2020年1月号、pp.16─17.
4)Obrezkov,F.A. et al.,"High-Energy and High-Power-Density Potassium Ion Batteries Using Dihydrophenazine-Based Polymer as Active Cathode Material,"J.Phys.Chem.Lett., DOI:10.1021/acs.jpclett.9b02039, pp.5440-5445, Sep. 2019.