配車サービス大手の米Uber Technologiesが「空飛ぶクルマ」によるモビリティー構想を発表してからおよそ3年。同社や新興企業を中心に、航空業界も巻き込みながら実現に向けた動きが加速した。いよいよ大手自動車メーカーが同分野に参入。2023年の商用サービス開始が現実味を帯びてきた。
「3年前は夢物語と言われた。だが、エアモビリティー実現に向けた動きは予想以上に進展し、現実になろうとしている。大手自動車メーカーが加わったことで、この流れはさらに加速するだろう」─。
Uberで、空のライドシェア「Uber Air」に向けた機体開発の陣頭指揮を執るMark Moore氏は、2020年1月に開催された垂直離着陸(VTOL)機業界のイベント「Transformative Vertical Flight 2020」の壇上で、満面の笑みでこう語った。同社は2023年の商用サービス開始を目指し、2016年ごろから精力的に活動している(図1)。この目標達成に不可欠なのが、「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動のVTOL(eVTOL)機だ。その実用化への道筋が見えてきたことが、同氏の笑顔の背景にある。
Uber Airのような、都市部での「空のライドシェア」や「エアタクシー」は「UAM(Urban Air Mobility:都市型航空交通)」と呼ばれる。行政などが都市部の渋滞問題を解決する手段として期待を寄せており、以前からeVTOL機の利用が研究されてきた注1)。
Uberは、eVTOL機を利用することで、ヘリコプターに比べて運賃を安くする。パイロット不要の自律飛行と組み合わせれば、自動車のライドシェア以下の運賃にできるとみている注2)。その上、自動車で移動する場合に比べて数分の1の時間で済む。このように、飛躍的に利便性が向上することから、UAM市場は急拡大する可能性を秘める注3)。
もっとも、既存のライドシェア事業は、個人の所有車を利用するのでリスクが小さく、規模を一気に拡大しやすかった。これに対してUAMでは、まず機体から実用化せねばならず、タクシー並みの運賃にするには、ヘリコプターよりも多数の機体をそろえる必要がある。年間の生産台数が1000台前後とみられる民間ヘリコプターに対して、UAMが普及した際には少なくとも数千台のeVTOL機の製造が見込まれている。これは、航空機業界にとって未経験の生産台数になる。その上、eVTOL機に必要なモーターやモーターを駆動するインバーター、電力源になる2次電池という電動化技術の知見に乏しい。
そこでUberを始めUAM業界は、自動車業界に期待を寄せる。航空機の製造を上回るペースで低コストに量産する知見を有し、かつ電動化の経験も豊富だからだ。
そもそも、eVTOL機が現実味を帯びてきたのは、ハイブリッド車や電気自動車といった電動車両向けに、モーターやインバーターの小型・軽量化や高出力化、2次電池の容量増大やコスト削減が進んだからである。数人を乗せて数十kmを飛ぶUAM用途であれば、2次電池の電力だけで飛ぶ「フル電動型」のeVTOL機で達成できる水準になった。