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次世代のUAM(Urban Air Mobility)の実現に向けた米Uber Technologiesの勢いが止まらない。機体メーカー8社を中心にさまざまな分野の企業と協業してエコシステムを拡大しながら、2023年の商用サービス開始に向けてアクセルを踏む。Uberと協調しつつ、機体メーカーも、空の移動革命の波に乗ろうと独自の道を進む。

 巨大な「MaaS(Mobility as a Service)」プラットフォームを中核に、日常生活を支える企業になる─。そんな野望を胸に秘めるUberは自動車のライドシェアサービス「UberX」を皮切りに、電動自転車や電動キックボードのシェアサービス、公共交通の乗り換え案内機能「Transit」を提供するなど、移動手段の「マルチモーダル化」を進めてきた。さらに、料理配達サービス「Uber Eats」を足掛かりに、食料品配達にも本格参入すると目されている。日常のあらゆる場所に浸透しようとしているのだ。

 そんなUberにとって、空のライドシェア「Uber Air」は欠かせない次世代事業である。2023年の商用サービス開始を目指し、2020年に実証試験を始める。米国のダラスとロサンゼルス、オーストラリアのメルボルンが対象だ。

 このスケジュールを達成する上でカギとなるのが、電動の垂直離着陸(eVTOL)機の実用化だ。同社の自動車のライドシェアサービスは、ドライバーの所有車を利用するので、リスクが小さく、スケールしやすい事業モデルだった。これに対して、空のライドシェアは、eVTOL機を実用化するところから始めなければならない。Uberが目指す自動車のライドシェア以下の運賃にするには、従来のヘリコプターよりも多くのeVTOL機を用意する必要もある。

 そこで、Uberは、NASAの研究者だったMark Moore氏を引き抜いて機体開発のトップに据え、Uber Air向け機体の研究開発などに取り組んだ。その成果として、「eCRM(eVTOL Common Reference Models)」と呼ぶ参照機シリーズを公開してきた(図1)。外部の企業によるeVTOL機の開発を促すのが狙いだ。

図1 自ら参照機を開発
図1 自ら参照機を開発
Uberは「Uber Air」向けの機体の開発を促すために参照機「eCRM(eVTOL Common Reference Models)」を設計、公開している(a)。5人乗りなど、Uberが掲げる条件を満たす機体である(b)。搭乗部にもこだわっており、人がスムーズに乗り降りできるものをSafranグループの米Safran Cabinと共同開発した(c)。(撮影:日経クロステック)
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 Uberは、自動車のライドシェアと同じく、機体を製造・所有せずに、サービスプロバイダーに徹する。自らの仕事は参照機の開発や検証などにとどめ、パートナー企業に商用機の開発・製造をしてもらう方針を貫く。機体開発には、2020年1月時点で8社がパートナーとして名乗りを挙げている(図2)。いずれの企業も、Uberが掲げる仕様を満たす機体を開発中だ。具体的には、パイロット1人と乗客4人が搭乗できる5人乗り、2次電池の電力だけで飛行する「フル電動型」、移動距離は最大60マイル(約96km)、巡航速度は時速150マイル、急速充電対応といったものだ。

図2 機体開発パートナーは8社
図2 機体開発パートナーは8社
Uber Airに向けた機体開発パートナーの数は2020年1月時点で8社である。各社の機体は特徴がある。(画像:「S4」はJoby Aviation、「PAV」はBoeing、その他は日経クロステックが撮影)
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 もっとも、機体だけではUber Airを実現できない。離着陸場や充電器といったインフラ、機体の安全・騒音基準の策定、運航管理システム、住民の受け入れ体制(社会受容性)の確立など、さまざまなものを揃える必要がある。そこで、多様な立場のステークホルダー(利害関係者)と共に、本格的な議論・検討を行うために2016年ごろから「Uber Elevate」というプロジェクトを立ち上げた。その後、2017年からその年次イベント「Elevate Summit」を開催し、進捗状況を明らかにしてきた。さらに、機体に必要な電動化の要素技術や設計時のシミュレーション技術、離着陸場や充電器といったインフラ、運航管理システムまで、外部団体の協力を得ながらUber Air実現のための準備を進めている(図3)。

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図3 さまざまな分野でタッグ
図3 さまざまな分野でタッグ
Uberは、機体だけでなく、運航管理システムからインフラまで、空のモビリティーサービスに必要なものを外部団体の協力を得ながら用意しようとしている(a)。加えて、建築分野やエンジニアリング分野のコンサルティングファームなどに、離着陸場のコンセプトデザインを発注している(b)。(画像:(b)はUber)
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