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究極の目標実現に必要な技術

 アバターロボットの究極的な目標は、「人間の実際の体験と等価な体験を提供できるアバター」だ。実現へのハードルは高いが、ANAHDは2050年の目標としてこれを掲げている(図9)。技術的には、「人間の目を模した映像の入出力」「遠隔作業用の高性能ハンド」「ハイレゾで低遅延な聴覚システム」などの実現が不可欠になる。

図9 ANAHDが掲げるアバターロボットのロードマップ
図9 ANAHDが掲げるアバターロボットのロードマップ
2025年に簡単な介護作業、2030年に屋外の厳しい環境での作業を可能にする。2050年には実際の体験とアバターを通した体験が同等になることを目指して開発を進める。(取材の内容を基に日経エレクトロニクスが作成)
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 ANAHDは実現に向けて、既に多くの研究機関や企業と共同開発を進めている(図10)。例えば、理化学研究所とは通信環境が良くない場所でも低遅延に映像を伝送できる技術を開発する。人間の目を模したもので、視野の中心部は高解像度、周辺視野は低解像度にすることで実現する。ソフトウエアだけではなく、専用カメラなどのハードウエアまで開発を手掛ける計画である。

図10 アバターの目、手、耳を開発
図10 アバターの目、手、耳を開発
ANAHDが他企業や研究期間と開発を目指しているアバター用の技術。低遅延かつ通信容量が少ない環境でも利用できる映像伝送や、遠隔操作用のグローブやセンサー、ロボットハンド、高品質で低遅延の聴覚システムなどの開発に取り組んでいる。(ANAホールディングスの図を基に本紙が作成)
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アバターで世界をリードできるか

 実はアバターロボットは「日本発の技術である」(長年研究に携わっている東京大学名誉教授の舘暲氏)。研究の歴史は長く、研究者の数も多い。日本は少子高齢化など“社会課題先進国"で、アバターを活用する場所も多い。

 ANAHDには当初、アバターロボットを活用する実験を「日本より規制が緩い米国で実施する案もあった」(梶谷氏)という。しかし、現在は日本でモデルケースを作ろうとしている。

 理由は共有物を大切に扱う日本の文化にある。治安の良さもあるが、自動販売機や洗浄機付き便座が公共スペースでここまできれいな状態で稼働しているのを見て驚く外国人は少なくない。将来、アバターロボットのシェアリングビジネスを展開する際、ユーザーがロボットを大切に扱ってくれるという点で日本は最適なのだ。

 この地の利を生かして、世界をリードする産業に成長させられるのか。黎明期の今、将来に向けての産業基盤を作れるかどうかが命運を握っている。