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人が遠隔から操作するアバターロボットの活用が広がりを見せている。この流れを引っ張るのは、人手不足に直面している業界だ。警備が代表的な存在だが、高齢化が進み働き手がいない地方の小売り店などからの引き合いも増えている。まだ黎明期にあるアバターロボットでできることは限定されているが、技術の進歩に応じて活躍の場は急拡大しそうだ。

 アバターロボットの活用や実用化に向けた試みが活発化している。分野は大きく4つある。(1)警備、(2)遠隔作業、(3)コミュニケーション、(4)遠隔体験だ。直近の導入の原動力になっているのは、人手不足などの社会課題の深刻化である。

警備

 現在、アバターロボットの導入に最も積極的なのが警備業界である。駅やビル、工場などでは、既に監視カメラが設置されているのに、警備ロボットを導入するメリットは何なのか。

 監視カメラの場合、それを至る所に張り巡らすわけにはいかず、どうしても死角ができてしまう。一方、人の代わりに巡回警備をするロボットなら、監視カメラの死角をつぶせるだけでなく、警備員のように動き回るので犯罪抑止効果がある。

 ただし、人間の警備の仕事を完全にロボットで代替できるのかと言えば、今の技術では無理だ。巡回だけならともかく、訪問者を目的地まで案内したり、急病人の発生など突発的な事態に対応したりするのは難しい。

 だから、そんな時は人が遠隔からロボットを操作して対処する必要がある。ロボットは遠隔にいる警備員のアバター(分身)として働くから役に立つのだ。

 どの程度、人間が介在するかは警備ロボットの設計思想による。ここでは人手不足解消への貢献を目指して現実路線で設計したMira Roboticsと、最新のテクノロジーを採用してより未来を見据えた設計をしたセントラル警備保障のアバターロボットを見ていこう。

トイレ掃除もできる警備ロボ

 Mira Roboticsが開発を手掛けるアバターロボット「ugo」は、人間による遠隔操作と自動巡回機能を備えたハイブリッド制御型である(図1表1)。同社は2020年2月、ビルメンテナンスを手掛ける大成と、アバターロボットを活用した警備ソリューションの開発で資本業務提携した。

図1 人の操作を前提にロボットを設計
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ロボットを遠隔操作する様子
ロボットを遠隔操作する様子
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図1 人の操作を前提にロボットを設計
Mira Roboticsが開発した「ugo」の新モデル(左)。人の目線の高さにカメラを配置し、操作しやすいようにした。ゲーム用のコントローラーで操作する(右)。(写真:日経エレクトロニクス)
表1 ugoの仕様
表1 ugoの仕様
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 同年4月に発表した新モデルは、ロボット本体からわざわざ支柱を立て、人間の目線と同じ高さにカメラを配置している。カメラ越しにロボットの操作や周囲の状況を把握しやすくする工夫だ。ロボットの操作には、家庭用ゲーム機のコントローラーを流用する。

 人間の腕のようなロボットハンドで、エレベーターの乗降やカードキーリーダーにカードをかざして入室したりできる。もちろん、設備側を改修してエレベーターやドアロックを無線通信で制御するようにすることもできるが、ハンドを使った方が低コストで、しかも既存の設備に対応しやすい。

 ロボットハンドの動作は、あらかじめVR(Virtual Reality)機器のコントローラーを使ってロボットに“学習"させる(図2)。現場でロボットを操作する際は、学習して登録した動作を呼び出す。

ロボットへの動作教示の様子
ロボットへの動作教示の様子
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VR用コントローラー
VR用コントローラー
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図2 動作をロボットにあらかじめ覚えさせる
ロボットハンドは操縦者があらかじめ動きを教えて登録しておき、操縦者はそれを呼び出す形でアームを動かす。(写真:日経エレクトロニクス)

 実は警備員の仕事は、不審者の発見・通報や事故対応以外にも数多くある。例えば、トイレの警備に加え清掃もする。ugoはハンドでトイレ掃除にも対応する。操縦者が掃除をしたい便器の位置を指定すると、ロボットは自律移動でその前にいく。そして、搭載する距離センサーで自分と便器の位置関係を調整。操縦者は適切な位置にロボットがいることを確認して清掃の動作を呼び出す。