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人との接触を避ける「コンタクトレス」配送や省人化に向けて、サンフランシスコやシリコンバレーに拠点を持つスタートアップが、自動運転による配送サービスの社会実装を進めている。当初は人件費の削減が大きな目的だったが、コロナ禍とそれに伴う外出制限による食料品や医薬品などの配送需要が急激に高まり、実用化が加速している。

 米グーグル(Google)が本社を構えることで知られるカリフォルニア州マウンテンビュー。2020年5月。普段なら人々で活気に満ちている街中は、多くの店が閉店し、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するための外出制限で閑散としていた。そんなマウンテンビューの街中を、ひざの高さほどのロボットが多数、走り回っている。

 その正体は、スタートアップの米スターシップテクノロジーズ(Starship Technologies)が手掛ける配送ロボットである(図1(a))。マウンテンビュー周辺でフードデリバリーの実験を行っているのだ。専用アプリで注文・決済すると、マウンテンビューのダウンタウンにある飲食店の料理やスーパーマーケットの商品などを自宅やオフィスといった指定した場所に届けてくれる。実験には10店舗近くが参加している。

(a)店舗前で停車中
(a)店舗前で停車中
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(b)アプリ画面
(b)アプリ画面
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(c)蓋を開けたところ
(c)蓋を開けたところ
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(d)信号待ち
(d)信号待ち
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図1 マウンテンビューを走り回るスターシップの車両型ロボ
注文された料理を店員がロボの中に入れる。その後自動で発注者の場所まで届ける。(撮影:シリコンバレー支局)

 記者はマウンテンビューのダウンタウンの近くに車を止めて、アプリからシーフードレストランのメニューを注文してみた。ちょうど「Uber Eats」などのフードデリバリーを注文するのと同じ感覚である。15米ドルの料理に、税金とデリバリーフィーが5.83米ドル請求された。スターシップは1回のデリバリーで1~2米ドルを店舗側に請求しているという。アプリのメッセージによると9~16分で届くとのことだ。

 歩道でロボットを待つ間、ロボットがどの辺りを走っているのかがアプリ上で確認できる(図1(b))。注文から10分ほど経つと、歩道の向こうから記者の前に向かってやってきた。大きさは、家庭にあるクーラーボックスより1~2まわり大きい、あるいはベビーカーよりやや小さい印象だ。早歩きほどの速度で近づいてくるのでそれほど圧迫感はない。配送ロボットの前に進路をふさぐように立ってみたところ、ぶつからずに停車した。

 到着後、アプリ上で確認ボタンをスワイプすると白いロボットの蓋のカギが外れ、品物を取り出すことができた(図1(c))。蓋を閉めるや否や、そそくさと方向転換して、レストランへと戻っていった。

信号も認識し、緊急時には人が介在

 スターシップの配送ロボットは、GPSのほか、各種のセンサーで周囲の状況を認識し、人を避けたり、赤信号で止まったりしながら歩道を走行して目的地まで移動する(図1(d))。今回、信号のある道路を渡る際の挙動を見ていたところ、長い横断歩道は無理せず、車が通らない中間地点で信号を待っていた。スターシップのロボット同士が鉢合った際にも、互いによけていた。異常があればオペレーターに通報し、人力による操作も可能だという。緊急停止もできる。

 配送ロボットの重さは、荷物がない状態で約20kg。積載量は約10kgである。最高速度は時速6kmほどで、雨や雪が降っても走行できるとする。

 歩道走行型の配送ロボットを手掛けるスタートアップの中で、スターシップは実績面で先頭集団にいる。2014年創業の企業で、イギリス ロンドンのミルトン・ケインズで2018年4月から商用サービスを始めた。それを皮切りに5カ国で商用サービスを運用し、配達回数は10万回を超えた。現在のところ拠点から3マイル(約4.8km)程度の範囲でのデリバリーに活用しているが、さらに遠い場所への配達も検討しているという。

 こうした豊富な実績に日本の大手企業も一目を置く。例えば電子部品大手のTDKは2019年8月、傘下の企業ベンチャーキャピタルである米TDK Venturesを通じてスターシップに出資した。出資額は非公表だが、今後成長が期待できる配送ロボットという新分野で求められる部品や技術を知るための出資だという。

 同年7月時点で公表したTDK Venturesの初期ファンドの総額は5000万米ドル。そこから推察すると、スターシップに対する出資額は数千万~数億円とみられる。スターシップがこれまで獲得した投資は累計で8500万米ドルに達した。2019年8月時点で従業員の数は200人を超える。