30年以上動きがほとんどなかった日本の風力発電に、巨大な地殻変動が起こっている。稼働こそしていないが、開発中の案件が約30GWも積み上がっているのだ。仮にすべてが稼働すれば日本は一躍世界の風力発電大国になる。既に風力発電バブルとも言えるほどの盛り上がりだが課題も多い。現実的には事業者の計画の1/5しか実現できないという見方もある。
「風力発電が儲かるビジネスであることがついにバレてしまった」─。ある風力発電事業の関係者は、日本で風力発電事業の新規案件が桁違いに増えている背景をこう語る(「約30GW分の風力発電計画 3千億円の“椅子取りゲーム”に」参照)。
風力発電は世界では再生可能エネルギー(再エネ)の代表選手だが、日本ではこれまでの約30年間、鳴かず飛ばずだった。2012年7月に国内で始まった本格的な固定価格買取制度(FIT)という強力な“追い風”が吹いたことで、太陽光発電は年間5G~9GW†のペースで猛烈に増えた。ところが、風力発電は一時むしろ新規案件が減った。「FITで風力発電が減った国は日本だけ」(ある風力発電の関係者)。日本で風力発電はもはや望みがないと考える人も少なくなかった。
マグマの噴火は2021年
ところが、水面下では風力発電事業への巨大なエネルギーが火山のマグマのように溜まり、地上に向かって動き出している。2015年ごろから、国内で風力発電の新規案件が急増したのである(図1)。案件数だけでなく、1案件の規模も桁違いに大きく、0.5GW前後という例は多数。1GWという標準的な原発1基並みの規模の案件さえある。
これまで日本で30年かけて導入された風力発電の累計は約4GW足らず。ところが2015年以後の新規案件は2G~約10GW/年と10~30倍の規模になった。30年分の累積導入量を新規の半年分で超えてしまいそうな勢いなのである。新規案件の累計は約30GWに上る。
ただし、この地殻変動は実際の風力発電の稼働実績としてはまだまったく表れていない。ほとんどの新規案件は2015年ごろから増え始めたが、ほぼすべてが約5年掛かる「環境アセスメント」と呼ばれる導入手続きの最中だからだ。しかもそこからさらに諸手続き後に建設工事を始めるため、新規案件の急増が実際の発電につながり始めるのは2021年。本格的に増え始めるのは2023~2024年になりそうだ。大規模案件では検討開始から稼働まで7~8年かかるケースが多い。